アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.13
今日2枚目の写真は「大門通り2丁目」のお姐さんたちのお仕事風景です。ありていにいえば、このシーンのイメージが、このエリア全体の構想の発端でした。このイメージに合いそうな、そして、それに連なるのに格好と思われるストラクチャーを集めていったのです。一つのシーンといえども、その存在に唐突感を生まないためには、前後左右に中心テーマへの伏線を作っていかねばならず、しかも、そこも同じ密度でなくてはなりません。
従って、やるべきことは非常に多岐にわたることになりますが、そこにこそレイアウト造りの面白さがあるように、私は思います。
さて写真の4軒長屋の店舗は「ダウンタウン・デコ」というストラクチャーメーカーのキットで、主材はハイドロ・カル(軽量石膏のようなもの)のキャスティングです。
寸法は、「正確」とは言いがたいですが、カッターナイフで削げば調整は簡単で、全体的には「易しいキット」といってよいでしょう。こうした石膏キャステイングのキットは、彩色に手間を掛けるほど佳い味が出てきますので、それが楽しみです。
「マダム・ウォンのエキゾティック・オリエンタル・マッサージ」という看板がいいですね。なんとも場末らしい妖しさがあるではありませんか!こういうキットが出てくるのが欧米の鉄道模型界の懐の深さですね。こういうのもあってこそ、人間が生で息づいている街、という自然さが出てくるのであって、日本のストラクチャー製品はまるで「健康優良児と学級委員の大集合」。そういうファシズム的美しさが却って不気味で、私は好きになれません。
「マダム・ウォン」の店の入口上の「20歳以下の入店お断り」表示は別の資料から私が作りました。米国では、こう書くのですね。レイアウト造りって、本当に雑学の宝庫です。
客引きのお姐さんが立つ2軒の店の看板を照らしているのが、さかつうの「チップLED」です。2本の結線は内径0.4φの真鍮パイプを通ります。所定の長さに切断したパイプを、ガス火でさっと炙ってから電線を通し、その後に曲げるとU字にもS字にも、「 字にも、作れます。
こういう風に使えるからこそ、チップLEDが何個あっても、きりが無くなるわけです。
しかし、模型では上から眺める事がほとんどである看板に、妖しさを出そうと思ったら、照明は「下から」に限りますね。怪談の時に懐中電燈で顔を顎の下から照らすのと同じ要領です。今回の発見でした。
店の窓のカーテンの下に、炭内の床が作ってあるのが見えますか?これはキットには含まれておらず、私が加えたものです。覗けば店内が見えるので、のちほどインテリアやお仕事中のお姐さんたちも作ろうという下準備で、各店内の壁も既に作ってあります。
こういうことをするから、また仕事が増えるのです。レイアウトを完成させる積りで造っているのではなく、いつまでも遊びたいから仕事を増やしている、という実態が窺われます。
店の前のガタガタな歩道も同じ「ダウンタウン・デコ」の製品です。歩道というのはイメージでは平らなようで、実際にその気で見てみると結構凸凹の多いものです。特に自転車で走ってみるとよく判ります。こうした場末なら、なおさらの事。
米国の歩道も、歴史の古い街ほど、裏通りに入ればガタガタ、余所見歩きでは足元が危ないほどです。
ですから、この通りの表現が上手く行ったポイントの一つは、このガタガタな歩道をウオルサーズのカタログから見つけたことだった、と思います。事実、この歩道を手にした時、「これで、出来た!」と確信しましたもの。
レイアウトを造ろうという目で、日々、街を観察して歩くと面白いですよ。