アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.16
今夜、D&GRN鉄道ハドレイヴィル市ビッグゲイト・アヴェニューは照明工事のすべてと当初に構想したディテールの盛り込みが一応完了しました。途中の中断はあったものの起工から22ヶ月という長丁場でした。この部分の長さは220cmですから、進捗速度はひと月平均10cm、ですかね。
「夜のお姐さんたちがたくましく働く歓楽街を造ろう」というのが、このプロジェクトの骨子でしたが、その最初に私の頭に浮かんだ画はこの写真です。NMRAのコンベンションで、硬いイメージだったノッホ社が突如発売した「セクシー・シーン」シリーズ人形に出会ったとき、即座にこの「窓越しに見せる売春宿」を構想し、そこから周囲へ風景をつなげていったのが「大門通り」の220cm、というわけです。
「一つのパーツ、あるいは1体の人形から周囲の風景に広げていく」という構想の仕方は、私はよくやります。映画でエンディングによく用いられる、「画面がアップからワイドに下がっていくズーム・アウト」と同じです。パーツから、あるいは人形から、自分の視点が後ろへ下がっていくうちに、そのコーナーの全体風景に視点が合っていくのです。
「全体をまずイメージして、その中を区割りに決めていく」という手法、つまり「ワイドからアップへズーム・イン」よりも、むしろ多いと思います。
つまり、雑誌の広告、カタログ、模型店の店頭、コンベンションのトレード・ショウで見つけた何か、から、物語りが始まるのです。レイアウトにせよ、セクションにせよ、ディスプレーにせよ、発想法としては、どうも、この方がイメージは固めやすいのではないでしょうか?
しかい、当初の構想になかったものが偶然に大きな効果、思わぬ演出になるのも、実際に造ることの面白さです。今回はそんな新鮮な発見もありました。
木造2階建てのカフェの階上が売春宿、という構想にして、自作の間仕切りで5部屋と廊下、それに「遣り手」の「おばさん」のいる受付に分けることにしましたが、各部屋にベッドやソファーだけではいかにもわざとらしい、と思いはじめ、ウオルサーズのカタログを繰るうちに、せめて便器と洗面台は入れてみようか、とエヴァーグリーン・ヒル・デザイン社のパーツを取り寄せました。「ベッドの脇に囲いの無い便器」というのは、いかにも場末の売春宿らしく、エロスとペーソスが交錯するではないですか!(と叫ぶほどの話でもありませんが‥)
届いた洗面台は、ちゃんと蛇口が2個別付けになっているので、本体を塗装後に、実物同様、ホワイトメタル無塗装の蛇口を取り付ければ、それらしく見えます。
しかし、洋便器の方は蓋を閉めた状態ですので、アメリカの古いレストランなどに見る、便座は黒、蓋は木目二ス塗り、に塗り分けることにしました。しかし、小さいメタル・パーツを白く塗る、というのは、いつもながら、角が引くために、乾かしては塗り、をやらねばならず、それをしながら、「狭い部屋の窓越しに見て、この手間の効果がどれほど見えるのだろう?所詮は、ついている、という自己満足だけのことかしら‥」と、いささかの自己嫌悪に陥っていました。(ちょうど腰痛はひどく、筆を洗いに行くのにも壁を伝い歩きしていた日でした)
ところが、です。各部屋の仕切りも整い(壁はピンク色でムードを出しています)、ベッドやソファーを入れて、洗面台、便器も設置、いよいよ、お姐さんたちとそれぞれのお客の手合わせ中の姿を配置、取り外し式に作った屋根を被せて、各部屋1個のチップLEDに点燈した途端です。窓越しに覗くと、効果のほどは半信半疑だった壁面の洗面台や洗面用具棚、角度によって視界に姿を現わす便器が妙にリアリティーをもたらしているのです。
自分でつけておいて、その思わざる効果に思わず唸りましたね。
これだから、ストラクチャー工作は楽しいのです。
今週の初め、「さかつう」の坂本さん、「クラシック・ストーリー」の山川さんと、たまたま「ストラクチャー商品は、なぜいつまでも、人気が低いのか?」というダベリになりました。
私の考えるには、それはきっと、皆さんがストラクチャーを徹底的に楽しんで造ったことが無いからではないでしょうか?
ストラクチャーは細密に作るものではなく、そこでいかに遊びを見せるかを楽しむものだ、と私は考えています。ストラクチャーは車輌と違って、コンマ何ミリを問題にする以前に、絵としてまとめ、ストーリーを語る模型で、そこを突き詰めていくと、車輌はどんなに細密でも、やがて、添え物になっていきます。(続く)