2011.12.9

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.20

米国鉄道&アメリカ型鉄道模型ファンに贈る「レイルズ アメリカーナ」vol.20

寒さのために、液状樹脂の表面は凝固しても芯の白濁がなかなか抜けなかった「プロスペクターズ・クリーク」の水流も、「大門通り」の照明工事でひと月過ごすうち、ようやく透明になりましたので、今週はついに、平井憲太郎氏による組み立て以来30年の木製トラス橋を固定し、ジェッツ・ウェル-クレメンタイン間の支線を全通させました。

芯に白濁を残したまま、次の作業を進めても、まず大丈夫だろう、とは見当をつけていましたが、万事、運に見放されている私のことですから、他の人ならOKのことでも、自分がやると何か災いが起こるに決まっている‥そこは身に沁みているので、用心に用心をして、鉄橋固定に手を着けたいのを我慢したわけです。

アクリル樹脂駅だけの水面製作を今回初めてやってみましたが、もし傾斜が無い水面なら、高価ですが高透明エポキシの方が、二液の混合比さえ丁寧に計れば、こうしたアクリル系の「水」製品より、はるかに扱いは簡単で、手早いですね。

白濁の取れたところへ、ウッドランドの「ウォーター・エフェクト」と、ターナーの「水性グレインペイント/アクアシリーズ/クリア」で、今度は薄く流れを整え、また二晩置いて透明になったところで、今度は水流の激しく変化する部分に「泡立ち」を描きこみました。

こうした「泡立ち」「波頭」には、アクリル絵具のホワイトを使うのが一般的ですが、私はもう長い間、「KKクリッパー」というメーカーの「マイクロ・バルーン」という材料を透明樹脂液に練り込んで使っています。

これは「ポリパテ」の軽量化増量剤として売られているもので、中が空洞になった半透明の微粒子です。東急ハンズなら注型材料コーナーにあり、たしか、一ビン400円したか、しないかぐらいと記憶しています。

中空のために、パテに練り込むと、増量はされるが重くならない、というのが本来の特性ですが、私は、この「中空」を泡や着氷、粉雪の、中に空気を含んだ半透明の輝き、として使っています。時には輝き、時にはグレーに沈んで見えるところが、泡や氷にそっくりです。

「プロスペクターズ・クリーク」は、川幅は大きくありませんが、「パワー・ショベルが頻繁に採砂しても構わないぐらい、上流から砂が運ばれてくるほど、流れの激しい川」という想定ですので、奥からの川底の傾斜も強めて、水量もたっぷりに‥ここに、固定レイアウトで傾斜がきついため高透明エポキシが使えない+アクリル系材料で深さをつけたために芯の白濁がなかなか抜けない、という悩みもあったわけですが、その水流の激しさを表現するには「泡」が重要です。

白濁を抜くのに苦労したのに、水面はわざわざ泡立てる、というのもおかしいように聴こえるかもしれませんが、芯の「もったりした白濁」と、「勢いのある泡立ち」は、まったく別物です。今回は、アパラチアの山中で撮ってきた、連日の雨に水かさの増した流れの写真を脇に置き、練り込むバルーンの量に大小をつけながら平筆で描きました。

そこのテクニックは、「LB4」に詳しく書きますので、ご興味のある方はご覧ください。

ただ、「水」は「魔物」。その表現も奥が深くて、私にとっても、多分、一生の研究テーマですね。

それで、#70レールを敷き終わったのが添付の写真です。レールの敷設自体は残っていたのがちょうど1mでしたが、例によってのハンド・レイドで約2時間。久しぶりにカーヴをスパイクしたので、勘を取り戻すまで、ちょっと時間が掛かり、調子が出てきた、と思った時には、開通してしまいました。

前にも書いたかもしれませんが、私の場合、線路周辺のシーナリーは粗々には仕上げ、そこへバラストを撒いて、最後に引き抜きレールをスパイクしますから、レールが敷けた瞬間には、その付近は一応撮影可能になっています。

これはジョン・アレンの手法が最初にTMSに紹介された記事の、建設途中の写真から
学んだものですが、途中で「試運転」は楽しめない代わりに、線路、特にバラストを汚さずにシーナリー工作がやれることと、シーナリーの構成に無理を避けるのを容易にしてくれる点では、私は「ベストの手順」と実感しています。バラストを先に撒いてしまってからの地面造りは難しいです。実物の手順が逆ですから‥

このカーヴは600R単一で、鉄橋の上に240mmの直線を挟んでいます。つまり、ジェッツ・ウェルの構内出口とクレメンタインの構内入口で、差し渡しは1,440mm。両駅構内全体での差し渡しは、ほぼ1,800mmです。

この支線はもともと、平井氏とプランニングしたとき、この支線だけ独立したエンドレスに仕立てれば、4畳半か6畳間に壁面周回型で造れて、ターンテーブル、小扇形庫も入るモデル・プランになるように、と考えたものでした。

「壁面周回」というのは、「自分には後は見えない」からつまらない、といわれた方がありますが、「後が同時に見えないから」こそ、「広く感じられる」のです。

ついでにいえば、「壁面周回」なら、エンドレス一周の半分の長さの列車が走っても不自然には見えません。なぜなら、真ん中に居ればエンドレスは一望できないから、です。

こうして全通してみると、そうした当初の狙いが、狙い以上に遊べることが確認できました。つまり、貨物用は2-8-0か4-8-0、旅客用は4-4-0、4-6-0、2-6-2などを主役に据え、ガス・エレクトリック・カーも併用する、実際にかつてのアメリカの各地に無数に存在した小鉄道を再現できるのです。

超大型機の運転はクラブ運転会などで楽しみ、自宅ではジョン・アレンのG&D鉄道に倣った中、小型機でじっくり造り込んだレイアウトで濃密なひとときを味わう、という風に使い分けるなら、固定レイアウトのスペースを生み出す可能性はグッと拡がるのでは、と私は考えたのですが‥今日の鉄道模型専門誌では、それすらも「一般的でない」の一言で否定されてしまっていて、鉄道模型そのものに対する夢も奥行きも極端に矮小化されているようです。

「誰にでも即座に実現できる」を基準にしたら、「夢」は語りようがないし、私たちのように、30年も50年も掛けて一つのことをやっている喜び、というのは、味わいようもありませんね。

もっとも、このぐらいのサイズで、造り込んだレイアウトは運搬可能な分割式でも可能だと思います。

日本では、モジュール・レイアウト、というと、あの、一人一つのコマ割り風景の連結がまずイメージされますが、あれは本場のアメリカではむしろ特殊な行き方であって、多くの可搬式レイアウトは、一周が連続した風景に造られています。

このぐらいのサイズのプランを600×1200と600×600の組み合わせで分割し、きちんとつなげた風景に仕上げるなら、公開運転でも、相当見せ場を盛り込んだ展示になるのではないでしょうか? (続く)