アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.28
胃腸をやられてぶっ倒れる直前でしたが、こんな遊びもやってみました。石油井戸の丘を超低空で飛ぶP‐51Dマスタングです。私が世界一好きな機体です。(正確には初期型のP-51Bが一番の気に入り)
面白いのは、こうやって飛行機を1機飛ばしただけで、途端にレイアウトが立体としての空間を大きく拡げることです。目が、空まで含めた視野で見るようになるからです。
この効果は以前から判っていて、D&GRNの空にはすでにプテラノドン(翼竜)、白頭鷲、トナカイに牽く橇に乗ったサンタクロース、ライト兄弟の飛行機が飛んでいますが、今回新たに、スペースシャトル、SR‐71超音速偵察機、F‐117ステルス戦闘機も加わりました。「天井まで使った奇想天外のレイアウト」というのをやってみたいのです。
P‐51Dは天賞堂で、そのほかはワシントンD.C.のスミソニアン博物館の売店で見つけたダイキャスト製(スペースシャトルはゴム製)です。P-51D以外は1/100以下のスケールですが、却ってその方が、高度感(といっても、彼らの用途からすれば「超低空」ですが)が出ます。
すでにここ2,3年で買い集めてあったのですが、肝心の釣り糸を上州屋へ買いに行くきっかけがつかめず、そのまま一日延ばしになっていました。
最初、欲張って、0.048φという現状で一番細いハリスを大枚はたいて買ってきてみたのですが、プラモデルならイザ知らず、ダイキャスト製の機体ではさすがに3本吊りの静止加重でも破断してしまい、結局、今回は0.185φというハリスで我慢しました。
「空も使おう」と考え付いたきっかけは、昔、鳥山明という漫画家のヒット作に「ドクタースランプ」(「あかねちゃん」という女の子型ロボットが大暴れするやつです)というのがあり、子供そっちのけで私の愛読書だったのですが、その背景の空が、ラドン(これを知っている人は相当の年配)が飛んでいたり、円盤が飛んでいたり、「スッパマン」が飛んでいたり、という、いかにも「ワンダーランド」らしい奇想天外な楽しさに魅せられたことでした。
「どうせワンダーランドなのだから、ここまで行こう!」と思いついて、以後、こういう冗談の種を探している次第です。鉄道名のサブタイトルにリオ・グランデ・ウエスタンの「シーニック・ライン・オブ・ザ・ワールド」を文字って、「コミカル・ライン・オブ・ザ・ワールド」としてあるのは、そうした気分の宣言?です。
まじめくさった実感追求のレイアウトのように見せて、目を転ずると、売春宿があったり娘たちの集団水浴があったり、こうした漫画的ジョークが散りばめてある、という、そのスレスレ感の追求と、「お客よろこばそ、思うたら、新幹線にウルトラマン人形にお笑い芸人」という粗雑な感性とは、全然別のもの、と私自身は思っています。いわば、ジョン・アレンがG&D鉄道で見せたジョークをさらに追求してみたい、という感じでしょうか?
秦の始皇帝の墓室には、言い伝えによれば、地上の山野を模した地形が造ってあり、空には金、銀の星が輝き、地上には水銀の川が流れているそうです。もし発掘されれば、世界最古のレイアウトだろう、と私は思っているのですが、近年の地上からの探査によれば、どうやら巨大な空間と莫大な量の水銀は実在するらしい。言い伝えはかなり信憑性を帯びてきています。
そういう筆法でいけば、同じ地下世界ながら、生きながらにして自分の理想世界を持てる「レイアウト」というのは、気分としては、実は始皇帝以上の贅沢(「後宮の美女3000人」は居ませんが)ではないか、と、時折夜中、「地下宮殿」で独り悦に入っています。