著書『レイアウト・ビルダーズ4』発売間近!
(※本記事は7月31日に執筆した物です)
木曜から二晩徹夜、日中仮眠3時間で書いていた『レイアウト・ビルダーズ4』の原稿が昨日土曜の朝9時半にようやく仕上がって、まだ若干の校正作業は飛び飛びにありますが、この本に関する私の仕事は一応完了です。なにしろ作例製作も撮影も文字原稿も「独り制手工業」ですから、これで、まあ、やれやれ、です。
本は8月21日発売の月刊『とれいん』と同時発売とのことですので、是非買ってやってください。今回は生意気にも私の作品集と(模型で!)銘打って、“ネルソン”の活躍する架空鉄道「米山鉄道」の物語を通じて、架空鉄道を実在らしく組み立てるストーリー、コンセプトの立て方、生殖信仰と古神道とつながりを例にした民俗学との接点、これも私がレイアウトD&GRNを造りながら頭の中でつぶやいている架空訪問記で、臼井茂信氏の河川改修現場の機関車探訪をベースに米国型に投影した、ちいさな機関庫とシェイと川原のお話、昨年のJAMコンベンションへ出品した米国の鉄道フェリー船着場、ヌードビーチ添えの細部紹介、それに中尾豊さん特別提供の昭和40年代初頭までの国鉄ローカル駅舎の貴重なカラー写真、それに「川原」「船着場」それにD&GRNでの作例を交えた私流「水の造り方」の解説をまとめました。
私としては、艶笑レイアウトという文学的?課題も含めて、技法紹介よりも、もっと基本的な部分での私がレイアウトに求めているもの、情景構成への考え方に重点を置いた積りです。
いまやたらに出版されるNゲージ・ミニパイクを作例としたレイアウト攻略本へのアンチテーゼ(まあ、業界の大半からは無視されるに決まっていますが)、たった一人の抵抗運動というところです。
今日の写真は、その『LB4』に、ミニ・ネイチャー社の草の広告で載せる写真をよこせ、と販売担当さん(ウチの長男)からせかされて、原稿執筆の間に撮ったものです。
この線路はクレメンタイン支線のジェッツ・ウエル駅から分岐して複々線のD&GRN本線を潜り、オールド・タウンの裏を抜けて、チコサン・ヴァレー木材会社専用鉄道のヤードに行く連絡線です。高校生時代の国内での専用線探訪の思い出を米国に置き換えた線路で、写真の区間は、ちょうどそういう鉄道が国鉄駅へ出てくるあたりのイメージで造っています。最近はめっきり少なくなってしまいましたが、駅を離れようとする車窓から見えた「どこへいくか分からない、謎っぽい引込み線」って、非常にそそられる存在だったではありませんか!
また、こういう、機関車が回り込んでやってくるアウト・カーヴからの眺め、というのは私の実物撮影での一番好みの角度です。これは臼井茂信氏の影響を多分に受けていますが、機関車が見栄を切るように側面を見せ、後続車両との構図も刻々変化するのは、どこでシャッターを切っても大きく変わらないイン・カーヴでの漫然さと違って、一瞬一瞬の美に向き合っている、という興奮を覚えます。汽車と自分の勝負、という感じがたまりません。
私のレイアウトづくりでの風景の構想は「こういう舞台で自分は実物を写してみたかった」という願望が基調になっている。その辺は「運転盤を風景やストラクチャーで飾る」という従来の日本のレイアウト観とは全く違うかもしれません。
この写真で画面に向かって左手の斜面は例の石油採掘所の丘で、ミニネイチャーを主体とした野草の密生を表現しています。これも東北本線奥中山での線路脇とか、ロッキー、アパラチアの山中で踏み切り脇の草場とか、そういうところへ足を踏み入れた時の、つま先で掻き分けて入っていった、目というより、身体の記憶が基になっています。「濡れていて足許が悪かった」あるいは「乾いていて滑った」― 私のシーナリーづくりはそうした過去の現場の記憶から出る想像から始まります。
緑の中に茶色い枯れ葉が混じった、あるいは茶色の枯れ草の一部に白っぽく乾ききった部分が混じる」という製品は実は私の提案で生まれた商品です。
ある年、私共とミニネイチャーの仲立ちになっているオランダ、フレビー社(あのスーパーツリーを生産している農場です)のゲラルドが「ミニネイチャーで次に作るべき商品のアイディアは何かないか?」と尋ねてきたので「ヨーロッパの草製品は一面一色。たしかにスイスの高原の牧草地ならそうかもしれないが、日本やアメリカの野草の草むらでは、春が来て夏が来てさえ前年の枯れ草が中に残っていて、それでないと作り物か園芸植物のように見えています。枯れ草混じりのシリーズはつくれないのか?」と返事をしました。
これが何と3週間後に試作品となって私のところへ送られてきて、ちょうど年末商戦が近づいてきたので、その月の末にはアメリカで「バッファロー・グラス」と名づけて先行発売となりました。これがアメリカで大ヒット。いまでもこのシリーズは米国でのミニネイチャーの売れ筋商品No.1です。そして、これに着目して、昨年辺りからヨーロッパのレイアウト用品メーカーが続々と似たものを出し始めました。いまのところ、枯れ草の混ぜ具合などにミニネイチャーが一日の長があるようですが、うちのレイアウトでのニーズがそうやって商品競争になっているのは愉快です。
線路の向こう側は本線の築堤斜面です。こちらはまだ自分の中に細部までのイメージが絞りきれていないので、芝草が枯れたような色のグランド・カヴァーで一面を覆ってあります。私は、特にイメージが涌かない時は、とりあえずこうしておきます。写真撮影で見苦しくない。秋から早春、アメリカ西部の夏ではこういう地面はあちこちに見られます。西部劇映画(特にテレビ用)は昔カリフォルニアの海側で撮影されることが多く、農場周辺の場所、という設定ではこんな感じの地面がよく出ていました。
しかし、今回の写真では、そのままではまとまりがないので、カーヴの中央辺りに「すがすがしそうな広葉樹の若木」を1本だけ植えてみました。この1本がすくっと立っているだけで風景の立体感、遠近感が断然変わります。風景が三角形に立ち上がってくれました。
「木1本が情景を変える」だから、木1本もストラクチャーに匹敵するキャラクターをもっている、と私は思うのですが、いかがでしょうか?
私が『LB』で見せたい、語りたいレイアウト論というのは、こういうことなのです。
この広葉樹もミニネイチャーのハンドメイド製品で、非常に実感的ですが、手造りだけに価格も高くなってしまうので、まだ本格的には輸入していません。多くのレイアウト・ビルダーが「適当に植える」ではなく、木1本にキャラクターを認めて吟味してくれる時代が早く来てくれるとよいのですが‥