アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.29
今日ご覧に入れるのは近刊の「LB4」に使う予定の写真の1枚です。レイアウト工作と並行に、こんな撮影を重ねています。
この「アスペン砂利会社専用鉄道」の小さな機関庫のある情景は今年2月ごろから、しばらく皆様にお届けしていたものですが、もし画像を保存してくださっておられる方がありましたら、当時と見比べてみてください。何が変わったか?
そう、庫の前に二人の作業員の姿、そして鍛冶職場の炉にはカンカンに火が熾り、線路の脇では溶接の火花が瞬いています。
「レイアウトは成長する」のです。すべてが沈んだ色調の蔵の周辺に、対照的な鮮やかさ、息吹のようなものがあれば、風景が活きいきするのではないか、と考えました。鍛冶職場の炉は機関庫のキットに含まれていたキャスティング・パーツですが、中央に穴あけ加工を施し、チップLEDが埋め込めるよう、真鍮パイプを地中まで通しておきました。
そのあと「さかつうギャラリー」に行きましたら、お誂えに、チップLEDを炎のように揺らぎ点滅させる回路をオリジナル商品として用意している、というので、それに結線した赤のLEDの上に、ほぐした脱脂綿を載せました。静止画像で見ても、結構、カッカカッカと火が熾っている感じが出ているでしょう?
「溶接作業」の方には一つの思い入れがあります。
日本の鉄道写真史上に卓抜したセンスを遺した制作集団といえば、何といっても「けむりプロ」の名前が浮かびます。私より4~8歳上の、ちょうど、まだ素晴らしい車輌や路線、光景がふんだんに残っている一方、旅行事情や撮影器材が著しく改善されてきた、その接点に行動力の発揮できる学生時代を過ごした、慶応義塾の中学、高校出身者の鉄道写真グループです。
その創作活動の結実が、交友社から刊行された「鉄道賛歌」です。この素晴らしい写真集には国鉄の車輌が一切登場しないために、国鉄の部内販売を趣味界以上のマーケットにしていた当時の交友社社内では評判が悪く、販売は数年で打ち切られてしまいましたが、もし、あの実力ある交友社がこうした文学性の高い路線を地道に育ててくれていたら、いまの日本の鉄道趣味界、鉄道模型界はどれほど上質のものになっていただろう、とつくづく惜しまれます。それほど詩情が溢れる名作です。
その「鉄道賛歌」の「上芦別物語」、私の永遠の憧れ、9200形の最後の活躍を活き活きと捉えた珠玉のページの中に、ほの暗い庫内で背を丸めて溶接をしている老作業員を写した一枚があります。
この写真がなぜか、この40年来、私の網膜に取り付いて離れないのですが、先ごろプライザーから発売になった「アメリカの鉄動作業員」セットに、この上芦別の老作業員のように地面にかがみこんだ溶接工を見つけました。
「これですよ!」と、「米山鉄道」の庫にも使ったGRS社の「アーク・ウエルダー」〔ラジオ電波の強弱を拾ってアット・ランダムに明滅する〕と組み合わせることにしました。当初は庫内に設置しようと思ったのですが、小さな蔵の中ではよく見えそうもないので、作業場所は庫の前にしました。ちょうど脇にシェイが駐機していると、その足回りが溶接の火花で浮かび上がって、いい感じです。ペースの異なる二つの明滅の競演で、小さな庫も存在感がより高まりました。
このように、写真集の中に見つけた感動の情景を模型の世界に転写する、というのもレイアウトならでは楽しみではないでしょうか?「寸法や構造を正確にスケール・ダウンする」ことばかりが「模型化」ではない、と私は思います。
私がいうのも何ですが、実物写真集って、レイアウトのネタの宝庫なんです。「日本の情景であっても構図だけ利用して、アメリカの風景、アメリカ型の材料で描けばいい」というのがD&GRN流です。ですから「鉄道賛歌」+「ウエルサーズのカタログ」で、こうした光景が生まれる、というわけです。
場面の奥の方では、田舎道に踏み切り標識を植えました。これも、色を押さえた風景の中に白い標識が立ちますと、それだけで、場面に適当な「句読点」が入って、奥行き感、立体感が生まれるから不思議ですね。そういう、思わざる効果、機微を発見できるところにレイアウト製作の面白さがあります。
この場面では、3台の中小型蒸機がそれぞれに存在感を見せています。このぐらいのサイズの機関車でも、レイアウトならしっかり存在感を主張する、ということを実践して見せたジョン・アレンはやはり偉大ですね。とりわけ、いまのようなさわやかな季節には、このぐらいの中小型機でしっとり遊ぶのは、佳いもんです。