2012.4.5

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.31

この1週間でやった工作(と、いえるか?)に、「HOn3の客貨車の走行改良」がありました。これは、長いD&GRNの歴史の中で、また今後のD&GRNの展開を考える上で、画期的な出来事、と思いますので、報告しておきます。

D&GRNに於けるHOn3の歴史は、かれこれ45年に亘ると思います。小学生の高学年で頻繁に買うようになったMR誌や‘クラフツマン’誌の広告に刺激されて、どうしても「ナロー」がやりたくなり、どうもHOn3製品も輸出しているらしい鉄道模型社を見張ること数年。ついにリオ・グランデ・ウエスタンのK-28の輸出残りが店頭に出たのを知って、飛んで買いに行ったところから、現物を手にしてのHOn3歴は始まりました。

その後、関西のつばめ屋模型店なども見張り続け、実家の屋根裏レイアウト時代には機関車も5台、客貨車も天賞堂に頼んで輸入してもらったラ・ベル社キットを組んだもので、そこそこの車輌群となり、線路も平井さんの協力を得て、シノハラが売り出したフレキシブル・トラックで延べ10mほど敷きました。

ところが、そこで判ったことは、客貨車用のHOn3台車、というのは日本製、米国製とも、見てくれは良いのですが、何せ転がりが悪い。一方、機関車の方も、HOn3用に作られた棒型モーターはどれも回転が滑らかでない。

この二つが相俟って、とにかく「HOn3は、牽かない、低速が利かない」のです。

これは、私のところばかりでなく、日本でせっかく一時は増えた米国型HOn3ファンもがっかりさせ、また本場米国においてさえ、ナロー・ゲージャーをOn3、やがてSn3へと転向させてしまう理由となりました。

「スタンダード・ゲージと並んだ時の対比の面白さ」「同一レイアウト内での二つのゲージの同居」という魅力の原点で考えれば、本来、HOn3が断然有利なはずなのに、客貨車の台車の転がりの悪さが、この半世紀、それを阻害してきたのです。

しかし、D&GRNでは「二ゲージ同居」の魅力は捨てきれず、また、そもそも舞台にロッキーを選んだのも、ロッキー・ナローの魅力に惹かれたことが大きかったのですから、「まあ、いつか花咲く事もあろう」と、HOn3をプランに取り入れ、線路だけはスタンダード・ゲージに歩調を合わせて建設してきました。車輌も、走らないこと承知で集め続けてきて、いまでは何だかだ、総数は100輌をはるかに超えていると思います。線路も、一番長い部分では30mほど敷設済みなのです。

しかし、走らせたことが無い。軒並み「回転しないで引きずられていく」台車の音を聞くだけでもいらいらする事は目に見えていましたから、この30周年、HOn3は「レイアウトを飾る置物」」だったのです。

ところが、「革命児」というのは、現れるものです。いまから6年ほど前でしょうか、米国のナロー・ゲージ・コンベンションに新しいメーカーが、何と「プラスティック製のHOn3」という、「まさかのまさか」を引っさげて登場しました。

DCCシステムにサウンド分野で画期的な製品、「ツナミ・サウンド」(歴史上、津波がもたらした惨禍をいろいろ読んできた私は、前からこのネーミングは嫌いですが)を開発して、瞬く間に米国DCC界を席巻した「サウンドトラックス」社が子会社として始めた「ブラックストーン・モデルス」です。

ナロー・ゲージ・コンベンションの会場で本人から聴いたところでは、この「サウンドトラックス」のオーナーは、もともと自身はナロー・ゲージャーで、本当はHOn3のためのDCCサウンドを開発したかったのだが、それではいきなり商売になりにくいのでスタンダード・ゲージ用のDCCサウンドでまず経営の基盤を固め、それが軌道に乗ったので、いよいよ自分が一番やりたかったHOn3の再興に乗り出した、とのことでした。

最初に発売したのは、定石どおり‘ウエスタン’のK-27でしたが、DCCには全く興味ない私としてはそれには用事はありませんでした。ところが、やがて貨車を発売するようになってきて、これが出来は大変素晴らしい。いままで1台何日も掛けてキットを組んで、塗っていたのが、塗装済み完成品で、おまけにウエザリングも本格的にやってある、同形式での番号違いも豊富というのですから、家畜車、タンク車、ゴンドラカーなど、単一車種ばかりを連ねた専用列車が多い‘ウエスタン’や‘RGS’の貨物編成を再現したいファンには多いに助かります。

その上、この貨車の台車の転がりが素晴らしい。そりゃ、Nゲージ製品から見れば当たり前なのですが、その当たり前をHOn3ファンは40年、50年、待ち焦がれていたのです。

そして、嬉しい事に、さすがオーナー自身がモデラーで、同好の者の気持ちがよく判っている。その台車を単品別売してくれるようになったのです!ですから、同社の貨車を買う以外に、かつてのブラス製品やキット組立て品で揃えた車輌群もほとんど無駄なく、素晴らしい草稿ぶりに変身することが出来るのです。

そして、先月、昨年から予告されていた、‘ウエスタン’の標準客車ともいうべきジャクソン・シャープ製オープンデッキ・コーチが発売になりました。

これがまた、プラスティックらしさを全く感じさせない(あの牛乳瓶の底みたいに中がゆがむ窓ガラスでない!)出来で、ブラスモデルと連結しても、ちょっと見分けが着きません。そして、庫の台車もまた、転がりが素晴らしい。で、この台車もまた分売あり、なのです。

そもそも‘ウエスタン’の客車用台車というのは最後までほとんど1種類に近く、また北米の3フィート・ナロー鉄道の客車用台車も同寸法、同タイプですから、この台車分売はありがたいです。かつて発売されたHOn3客車の走りの悪さが、これで一挙解決です。

私などは客車よりも先に、まず台車の分売に予約入れてしまいました。

ちなみに、いま大宮の鉄道博物館にある「開拓使」の台車もほとんど同じです、木製のフレームに軸箱控えなどがボルト締めしてあります。台車に木材、というと日本人はまず強度を心配しますが、振動を吸収するので、米国ではスタンダード・ゲージの3軸台車にさえ愛用されました。

それで、週の前半、事務所やらレイアウトやら倉庫やらに分散していたブラス製のHOn3客車のうち、塗装が済んでいるものから台車交換を始めたのです。まあ、時代も違うし、プラとなれば、自社製品の組み立てに都合よく設計されているだろうから、一定の加工作業は仕方がないか、と覚悟していたのですが、これがそんなことが全然無い!ほとんどのブラス製品にそのままか、高さ調節にワッシャ1枚はさむ程度で、ボルスターのビス穴径すら広げる必要がないのです。

それで、在来車が瞬くうちに「走るモデル」に変身!何しろ、いままでのHOn3製品といったら、レールの上で押したらそのまま転がっていく、なんて夢のまた夢、でしたから、まさに新鮮な感動です。

これでJAMコンベンションが済んだ秋以降、D&GRNではHOn3線路の復活整備と未成区間の建設に熱が入りそうです。

写真は、まだ展示台状態の区間ですが、「恐竜渓谷」の断崖に、ユナイテッド製のK-28を先頭に並べてみたリオ・グランデ・ウエスタン鉄道シルヴァートン支線の観光列車編成です。ブラス製の客車の今回台車交換したものに、3台、ブラックストーンが今回発売のプラスティック製が混じっていますが、違和感は全く無いでしょう?最前位のボックスカーから数えて4輌目と、後から3輌目、4輌目がそうです。そういわれれば、色の不揃いでお分かりになるでしょう。

近ごろ思うのですが、昔風の列車というのは、同色といっても、1台1台検査時期が違うので、このぐらい色の褪せ方にばらつきがあった方が却って実感的ではないでしょうか?特に黄色、オレンジ、茶、グリーンなどは紫外線で焼ける、洗剤で白くなる、で実車も結構大きな差が見られます。そう考えれば、むしろ、1編成を同時に塗装するのではなく、逐次塗る方が佳いのかもしれません。若干ばらつきがあるほうが、走らせてメリハリがあるような気がします。

最近、模型店にも塗装などのわずかなことで交換や修理を要求するクレーマーまがいの客が多いそうですが、実車をよく見ていないのを白状しているようなものです。電鉄では金持ちの小田急、京急ですら、黄色味のあるのと白っぽいの、鮮やかな赤と、ピンクに近いのが居ます。

ちょっと報告する積りが、また長話になってしまいました。