アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.43
『レイアウト・ビルダーズ4』をお求めくださった方には、ごらんになられていかがでしたか?ご感想など、ご要望など、お聞かせいただけると、今後の参考になります。
前号で「庭の彼岸花がまだ芽吹かない」とご報告しましたら、地中で聴いていたと見え、数株が慌てて芽を現せました。速いものはこの3日間で30cmに達したものもあります。生命の勢いには圧倒されます。レイアウトもこのぐらい勝手に成長してくれたらいいのですが、こちらは相変わらず「眺めてたって増えねーぞ!」(落語「大工調べ」のセリフ)です。自分で頑張るより他にありません。
彼岸花は「幽霊花」、「死人花」と言って忌み嫌う方もありますが、私は大好きです。あれこそ日本の野山に秋の訪れを告げる彩でしょう。「万寿沙華ひとむら燃えて秋日強しそこ過ぎていく静かな道」でしたか、もともと東京の下町のど真ん中に育って彼岸花など無縁であったのが、高校の教科書に載っていた立原道造だったか、作者名の記憶はあやふやですが、この短歌で鮮烈に印象づけられて以来、その朱赤のひとむらに憧れて止まないようになりました。蒸機なら9600辺りが似合いそうな景色が浮かんできます。
我が家の庭のものは20年ほど前に八高線沿線の高麗神社の近くで採取してきた球根とか、近所の空き地に出現したものを移植したりとか、を増やしている最中です。目標は高麗の巾着田のように樹間一杯にすることなのですが、球根に子供はできても花芽を出すまで数年掛かるようで、たった二坪ほどなのに達成度はまだ4割というところです。
しかし、考えてみればレイアウト製作というのは俳句、短歌に似ていますね。広大な風景から季節や風物をつかみ出して狭いスペースの圧縮し、それで大自然なり人の暮らしなりを象徴的に表現して見せるのですから‥いっそ、実景を短歌や俳句に詠んで、それをシーンに再現してみる、という思考回路を経ると、構想がまとまりやすくなるかもしれません。レイアウトを実物写真のように造ろうとするから難しい、俳句のように作ろうと考えれば自ずとエッセンスが見えてくる、というところでしょうか。
流氷の閉じたる浜に破れ凍てし舟一つあり鉛の空と
これは高校1年の終わりに一日、釧路郊外原生花園で釧網本線のC58を写した折の短歌もどき、言葉のスケッチですが、こういう風に印象をまとめておくと40数年経っても風景の特徴は忘れません。レイアウトは闇雲に細かく造ろうとするのではなく、「そこには何と何と、何があった」くらいの記憶を軸にした方が、メリハリがつくのです。
私は三題話ではないが、大体三つくらいの印象をポンポンポンと置いてみて、その間は必然で埋めていくやり方をします。『LB4』の中で「米山鉄道」にしても「クラム・ベイの船着場」にしても製作アルバムの初段階をご覧ください。まず三つくらいの建物をポンポンポンと置いて全体のスペース配分を構想しているのがお分かりになるでしょう。燈台にいたっては組む前にはコップを伏せて代用にしボリューム感を目分量しています。まず三つを決めたら、それを基点に次の三つの関係を考える‥こうしていくとしまいにスペース全体がバランスよく埋まります。
小学生のはじめ頃、ちょっと活け花を習って、草月流でしたが、「3本の軸線でまとめる」という基本を教わりました。「三つポンポンポン」というのはその記憶が染み付いているのでしょうか?そうだとすれば幼い時の刷り込みの効果って恐ろしいものですね。
話は変わりますが、JAMコンベンション。「あれはNゲージばっかりだ」という方もありますが、なかなかどうして近年はデパートの業者ショーとは違う、アマチュアの熱意で多彩なゲージの出展が並ぶようになりましたし、業者のコーナーでもベテラン・モデラーの目を釘付けにするような品が並ぶようになりました。
私が今回一番気になったのはModels IMONが新発売のHOe仙北鉄道ポーターCタンクの見本でしたが、もう一つの思わぬ出逢いは、静岡から夫婦で出展した鋸屋さんでした。
この業者さんはJAMの伊藤副理事長が静岡のホビー・ショーに出展しているのを見つけてJAMコンベンションへの出展を誘ったところ快諾された特殊工具メーカーで、名を「シモムラアレック」といいます。
「職人堅気」と銘打った刃物は見るからに優れもの揃いですが、中でも「ハイパーカットソー0.1 PRO-M」という金属用の小型手引き鋸は刃の厚みが0.1mmで、切った跡が肉眼で見えないほどの切れ味で、奥さんが「試しに切ってごらんなさい」というので手渡された洋銀レールを切ってみたところ、スイスイ切れて部材に刃が噛む事もなし。ドレメルのカッティング・ホィールでもこのように正確にスパッとは切れない。これならポイントの現場打ちでも正確な切断ができそう、とたちまち財布の紐を緩めてしまいました。
プラスティック用には「ハイパーカットソー0.1」というのが用意されており、こちらもプラ車体の正確できれいな切断に願ってもない優れもの振り。これも長年プラ車体の切り継ぎ加工には切断がきれいに行かず自信が無かったのを解決してくれそうです。とにかく刃の幅を感じさせずまっすぐ切れるのが凄い。
実はこのほかにもう一つ凄い鋸があったのですが会期2日目に行ったら、もう売り切れでした。やっぱり皆さん見るところはしっかり見ていますね。さすが鉄道モデラーの祭典です。「Nゲージうんぬん」と馬鹿にしたものではありません。
まずは2種類、買って帰って、その後、やたら忙しくなってしまい、自宅で切れ味を試す暇がありませんでしたが、今日ようやく使ってみました。D&GRN鉄道のクレメンタイン駅構内。3本の留置線の車止めが従来、枕木利用の簡便なものだったのが、その目と鼻の先に「クレメンタイン・カーター・メモリアル・スクール」が開校して、眠ったような入換しかしないといっても、これでは余りに無防備過ぎよう、と金属製の車止めに変更することにしました。
使う製品は米国のトーマー・インダストリーという、細密な信号機と列車のテールサインで有名なメーカーのもので、正確丈夫なハンダ付け済み。これのプラ枕木を剥がして置き換えます。その長さ分、在来のレールを切断するのに、この「ハイパーカットソー」を使いましたが、固定されているレールならなおさら切り易く、ジコジコジコ、と、軽い手ごたえ。実に気持ちよく作業できました。
これで校庭の生徒たちは安心して遊べます。
「鋸職人の特殊目立て」という売り文句ですが、やっぱりまだまだ「世界に誇る職人大国にっぽん」ですね。伊藤副理事長とは「今後もこういう優れもの工具のメーカーを発掘してJAMコンベンションに引っ張って来よう!」と話しています。ベテランほど目が離せないJAMにしたい、というのがわれわれの目標です。
このシモムラアレックの特殊鋸、普段の販売は有限会社プラッツというところで扱っているそうで、興味ある方はhttp://www.platz-hobby.com/でご覧ください。