2013.1.28

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.45

11日間のロッキー撮影旅行から木曜日夜に帰宅しました。

「クンブレス・アンド・トルテック」と「デュランゴ・アンド・シルヴァートン」という、両者とも昔のデンヴァー・アンド・リオ・グランデ・ウエスタン鉄道の3フィート・ナロー線のうち、一番風光明媚でかつ線形的にも特徴ある区間が観光用として存続している保存鉄道での撮影会に参加してきました。

ブラス・モデル輸入商売の取引先でもあり、蒸機の模型談でもテイストが一致するグレーシャー・パーク・モデルのジミー・ブース氏が誘ってくれての旅行でした。彼は中学生の時からブラス・モデルの設計をオーヴァーランド・モデルスに採用されていた、いまや全米一の設計家でもあり、感性の優れたレイアウト・ビルダーでもあります。

今回のフォト・ツアーは別料金になっている夜景の撮影会まで入れると、三日間の列車の切符代が1日260~280ドルについてしまうので、決して安いものではないのですが、それでも初夏には切符がすでに売り切れ、という人気ぶりで、早々に売り切れになる理由は奥さんづれで二人分申し込む人が結構多いことにもあります。

その奥さん方が、朝6時30分に駅に集合、とか終了が夜の10時半、とかいうスケデュールに付き合っているのですから、ホビーへの価値観のポテンシャルの違いはまざまざと見せ付けられますね。

広くて、どこでも撮れそうに見えて、私有地に囲まれていたり、一般道から遠く離れていたりで、絶好の撮影ポイントには到達が困難、ということが多いのが米国の鉄道なので、そうした場所へ列車で連れて行って、そこで降ろして列車をバックさせ、走ってくるところを撮らせてくれる、という、この手のツアーはありがたい反面、どうしても大勢に撮らせる事(特にビデオのパン向き、を優先に選ぶ)のできる、線路に向かって広けた場所、足場の安全な場所、というのが、勾配の上下や光線の向きより優先してしまうので、本気で撮るには、個人撮影行と一長一短なのですが、釣堀と考えれば、まあ上出来の釣堀ではありましょう。

ただその日のツアー・リーダーの写真撮影の経験によって場所選びの好不適にかなり差があり、今回も3日目は、私だけでなく、周囲の参加者にも不評でした。大勢を降ろすことを優先に下り勾配で無理やり煙を出させたり(当然、煙は巻くだけで勢いが出ない)、完全に逆光線の場所に撮影者を並ばせたり、機関車の足回りが隠れてしまう場所をメインの撮影線に指定したり‥よく観察したら、最初の2日は、こうした個別ジャンルのフィールド写真を撮るツアーを専門にやっている企画会社からの鉄道写真家がツアー・リーダーになっていて、3日目は鉄道会社のスタッフで写真の素人が仕切っていました。

それでも、この二つの鉄道は罐の整備がいかにも現役らしい自然体で、その点、日本の観光用蒸機のあの玩具っぽいピカピカ整備には望めない魅力、迫真性がありますし、乗務員の服装が油まみれ、煤まみれの自然体なのも佳いです。

今回はまた、客車の外部塗色や貨車のレタリングを1941年以前、以後、それぞれの現役当時に復元し、機関車のレタリングもそれに合わせたものを用意するなどの特徴を出していました。大体、撮影用の木造貨車を現役当時の編成が組めるほど大量に復元してある、というのが、こればかりはこの2鉄道が世界一です。

私としては、列車撮影ツアーは、目的の半分で、これは来春に出したい「Rails Americana」新刊にシルヴァートン線の特集を考えているため、まだ撮ったことの無い区間を押さえたい、というもくろみでした。

あと半分の目的は、地下レイアウトD&GRNの山間部の植物の植え込みを最近発売の材料でグレードアップするのに、もう一度コロラド・ロッキーの植生と土壌をじっくり観察してきたい、というもので、こちらは期待以上の成果を得られました。

特に一昨年着手して、途中で停まっている鉱山2箇所の周辺をどういう構成にするか、乾いた高地でのトタンの錆色、日焼け具合などの決心が固まったのは大きな収穫でした。偶然にも、30年ほど前に廃業したがそのまま地元の歴史協会が保存している大型鉱山の選鉱場(ミル)の内部を、元従業員に案内してもらえた、という幸運もありました。

内部を作らなくとも、その内部がおよそどんな様子になっているのか分かっている、というのは、何かにつけて判断に大変役立ちます。

日本よりはるかに早く一般路線から蒸機が姿を消したのに、いまでも蒸機時代の風景が十分観察できるし、それをベースに旅行も楽しめる―アメリカ型のレイアウト・ビルダーって、つくづく得だなあ、と今回も思いました。本場のタコスも堪能できましたし‥

写真はシルヴァートン線の名所、レッドウッドの断崖。150m以上はあろうという眼下にアニマス川の水面を望む、足のすくむような絶壁を伝うSカーヴ区間ですが、ここに差し掛かったK-28(アルコ・スケネクタディー工場製で日本のC52と同時期の生まれ)が火室底部の不純物を吹き飛ばす「ブロウ・オフ」を行ったのが断崖の空中で虹を描いた瞬間です。日本の蒸機のブロウ・オフは下向きで、しかも罐水の水質を吟味しているので、ごくたまに機関区内でやる以外には見せませんでした。行儀がいい、といえばそのとおりですが、排気膨張室つきで歯切れの悪いブラストといい、こういう豪快さには欠けましたね。シルヴァートン線の蒸機は片道70kmほどで途中3,4回はやります。そのかわり「ドロ溜め」などという小ざかしいものは付いていません。