アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.46
東京は「昔の秋はこんなだった!」と懐かしく思い出させてくれる涼しさで、悦んでいます。皆様はこの連休、いかがお過ごしですか?
秋の訪れが遅くなり始めたのはいつごろからでしたか?少なくも「ゆうづる」の蒸機牽引が終わった昭和42年ごろは9月末の平機関区は「夜寒」という感じで、10月半ばに半袖を着ていたら見る目も寒々しい、と思った記憶がありますが、近年は、11月末まで朝顔が立派に咲いていたり、で、「秋らしさ」を感じる暇がなくなっていました。
私はおかげさまで9月の20日台にコロラドで「初秋のロッキー」を体験させていただいたので、帰ってからの5日ほどは蒸し暑さに閉口しましたが、ようやく秋が追いついてきてくれました。
初秋のコロラド・ロッキーは実にきれいです。空気は乾燥気味で清浄そのもの、日本の白樺より葉は丸いが幹は似ているアスペンは薄緑から薄黄、黄金色から朱赤に転じていく過程が標高や山襞の違いでさまざまな模様を見せてくれ、それが冷たい青緑のコロラド・ブルースプルースや幹の黒いポンデローサ・パインの針葉樹林と絶妙の対比を描いています。
アメリカのモデラーの多くは「ご当地ソング」ではないが、大体地元近隣の鉄道を走っているか、走っていたかの鉄道しか興味を示さないのが普通ですが、ナローだけはロッキーから遠く離れた東部や西海岸でさえも「ロッキー・ナロー」のファンが圧倒的に多いのは、この秋の景色を一目見れば頷けます。
好き好きでしょうが、スイスの山岳風景というのは、かなりの標高まで人の手が入っていて、そこを過ぎるといきなり荒涼とした氷河、という感じで、よく手入れされたテーマ・パークのような、出来過ぎたきれいさが却って窮屈に思えてしまいます。対してコロラド・ロッキーの風景は、人の営みのちっぽけさをものともしない、あるがままの大自然の山岳風景が果てしなく拡がっているのが私には胸躍るものを感じさせてくれます。
それを手軽に楽しませてくれるのが、今回も行ってきたデュランゴ・アンド・シルヴァートン鉄道、元のデンヴァー・アンド・リオ・グランデ・ウエスタン鉄道シルヴァートン支線です。
コロラド州南部の街、デュランゴを起点に45マイル、ですから、72km。勾配こそ、そうきつくはないが、アニマス川の流れを線路が洗われるばかりの車窓近くに、あるいは遥か眼下に眺めながら、片道3時間余り、ロッキーの秋を堪能し、折り返し点のシルヴァートンでは2時間15分、開拓時代の金鉱のブーム・タウンの名残を満喫しながら食事、ショッピング、後続列車の到着か先発列車の折り返し発車の撮影などができます。
沿線の2/3は一般道路から遠く離れた全くの大自然の中を走っていて、今回のフォト・ツアーは車齢100年以上の木造客車で編成を仕立て、そういう区間で下車させて列車の走行を撮らせてくれる、というのが売りだったのですが、そういう大自然の中を、3フィート・ゲージで短い交互継ぎ(米国の伝統)のレールと短いホイール・ベース、ウッド・ビーム、下弓イコライザーの台車(概ね開拓使号のものと同じ)の奏でる響きに身を任せてのひとときは、それだけでも十分価値ある体験です。観光バスの車窓では絶対に得られない体験です。
はっきり言っては気の毒ですが、同じように川筋を辿る、といっても大井川鉄道とはスケールの桁が全く違います。
コロラド・ロッキーがカナディアン・ロッキーと違って日本の海外旅行でほとんど宣伝されないのは、近くに日本からの直行便が行く空港がなく、到達するまでに時間が掛かってしまうのと、現地で観光バスをチャーターするのに運転手も泊めねばならず、それが団体旅行ではコスト高につくからなのだそうですが、シルヴァートン鉄道が穴場なのは、個人でも比較的行きやすいことです。
宣伝するわけではありませんがユナイテッド航空(エコノミーの機内食は年々質が落とされてもはやコンビニ弁当の方がはるかに上質で、成田空港の売店での食料別途購入をお勧めしますが)ですと、成田-サン・フランシスコ(ここで入国手続きと預け荷物の再委託)-デンヴァー-デュランゴと乗り継げ、デュランゴではホリデーインのような大型ホテルを予約しておけば空港に送迎のシャトルが来ます。
街は繁華な部分は1時間もあれば一周できる規模なので、駅にも買い物にも徒歩でいけます。つまりシルヴァートン鉄道に乗るだけなら、駅近くのホテルならレンタカー無し、運転免許なしでも楽に行けます。午後成田を発って、次の日(日付は同じ)の夕食はデュランゴの街で摂ることができる。デュランゴは、食事環境はよく、私は行きませんが最近寿司屋もできました。
ちなみに、米国の食事は探求する気ならいろいろ面白いですが、どこへ行っても、まず大外れは無く、特に田舎へ行くほど美味いのはハンバーガーのチーズ抜きですね。総体にいって、「調理法がシンプルなほど美味い」と判断するのがメニュー選びのコツです。一番外れの多いのは、私の経験ではパスタ類です。
今回はシルヴァートンの昼食で食べた「エルク(大型鹿)のバーガー」は美味かったです。「バッファローのバーガー」を出す店もあります。そういうところでも「西部」にドップリ浸れるのがコロラド・ロッキーの旅です。バッファローは見かけによらずさっぱりしていて、牛でもヒレをお好みの方には向いていると思います。
‥というような、旅の思い出を盛り込んでレイアウトを考えるのも、製作の楽しみが倍化するのではないか、と思いますが、わが国のレイアウト製作の手引書に、そう書いている本はほとんど、いや正確には私の造っている「レイアウト・ビルダーズ」シリーズ以外には皆無なのではないでしょうか?
あるのは技法書(それも類型的な)だけで、そこに書かれているのは大概「車輛だけでなくレイアウトを作ると楽しみが拡がる」という漠然とした、かつ紋切り型の説明だけです。
本当のところは、こうしたレイアウト入門本の筆者すら、「レイアウトの本を造るためにレイアウトを作っているだけ」で「楽しみが拡がった経験」はほとんど体験しておらず、「多分、楽しみが拡がるのではないか?」という漠然とした期待でそう書いているだけなのではないでしょうか?大体、一定の大きさの固定レイアウトを造った経験の全くない人が「仕事で書かなければならずに書いているレイアウト入門書」というのがほとんどすべてですから、そりゃ作者の興奮も感動も思い入れも無い、極めて無機質なレイアウト技法書しか出来ないのも当然でしょう。
こうしたレイアウト技法書は、何故造りたいか?何を表現したいか?を全く問おうとしていません。そういうメンタルな課題は造り手がすでに解決している、という前提から始まります。ですから作例自体も極めて無機質な、「技法を見せるための手本」というだけで、ストーリーなど全くといってよいほど存在しません。そんな「惚れ込みのない景色」をレイアウトに造らせようとしても、読者の制作意欲を昂進させるはずもなく、そんなものを読み返しても、読者の意欲が長続きするはずがありません。
業界でも、日本型に作る車輛の種が尽きてきて、「今後はレイアウトの時代ではないか」という言葉はちらほら出るようにはなってきていますが、具体的に「レイアウト製作の経験を持つ販売員」というのは全国の模型店を通じて皆無に近いでしょう。個人経営の模型店の店主では新額堂とかエコーモデルとかの例はありますが、入門者が行くような盛り場の大型店とか大手メーカーのアンテナ・ショップで、そういうスタッフを用意している、というのは天賞堂だけ(それもたった一人、たまたま)ではないでしょうか?
さらに根本的な疑問は、他の世界では情報は地球規模になっているのに、どうして鉄道模型だけはメーカーも出版社も、モデラーを「日本型」に縛り付けようとするのでしょうか?
運転会では仲間と日本型を走らせ、語り、自宅では世界の面白い鉄道、感動的な鉄道情景、愛すべき姿や色の車輛も楽しむ、といった幅の広い模型ファンをなぜ育てようとしないのか?
模型メーカー、販売店、出版社がこぞって、現在のファンの好みに任せて「日本型オンリー」という鎖国状態を続けている、というか、ますます強化しているわけで、そこにはメーカーの不勉強との相関関係もあります。
昨年、ある老舗大手メーカーの新製品企画担当者に「何ゲージに手を出してもシロクニの2番と3番ばかり造っていないで、世界有数の繁華街に店を構えている地の利を活かして、ダージリン鉄道の列車でも製品化したらどうだ?お宅のように世間的な有名店がそういう、新聞的な話題を呼ぶものを造ってこそ、新しい需要層も開拓できるのではないか?」と意見しましたところ、驚く事にその人は「ヒマラヤ・ダージリン鉄道」を知らなかったのです。あれほどテレビに登場するのに、です。だから、C62の2,3号機とD51の「ナメクジ、普通型、シューエン装置つき」の繰り返しなのでしょうね。(それでいて、何故突発的に「戦艦三笠」が出てくるわけ?全然エネルギーの無駄遣い)
実はいま、JAMで中学生、高校生の模型ファンを育てる事に大手メーカーや大型販売店の各社が相当こだわっている事が分かってきたのですが、しかし、そこにも鉄道模型の将来像というのは不在なのだ、ということも私には見えてきています。要するに、いまのままの製品をいまのように買い続けてくれるファンが育てば、それで満足のようなのですが、世界がこれだけ情報豊富になっている中で、そう、業界の都合どおりに行くものでしょうか?ホーム・ドアで車輛もよく見えなくなり、車体も画一化していく中で‥
先日のJAMコンベンションでの高校や中学の作品を見ても、先生が指導してさえ、(いや先生が指導するから?)段丘上の造成地に無機質なニュータウン風景、というモジュールが多かったように見えました。「成田から20時間程度の距離に現実にこんな素晴らしい鉄道風景が存在しているのに、大人が押し付けた鉄道模型の概念が少年たちの夢のスケールを小さくしているのではないか?」そんな疑問も抱いた旅でした。
秋のコロラド。是非一度お出かけください。自信を持ってお勧めします。