アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.60
この通信もおかげさまで3年目に入り、保存整理(こんなたわ言、世迷い言を保存してどうするんだ!という声もありますが)の都合で、今年からタイトルに毎回年をつけることにしました。
「偉大なる」という形容詞すら陳腐に思えるほどに卓抜したレイアウト・ビルダー、ジョン・アレンの没後、来年の1月で、ちょうど40年になります。この間、米国をはじめ世界にこれだけレイアウト関連情報、関連製品も登場し、遥かに細密な表現も可能になったのに、彼のG&D鉄道を超えるほど印象深いレイアウトがいまだに登場しない、というのは、もの凄い事ですね。「巨星」とは、まさに、こうした存在をいうのでしょう。
このところ、彼の評伝的写真集である『MODEL RAIROADING with JOHN ALLEN』
を文字通り座右に置いてはめくり返して見ています。「細密」という点においては今日、彼のG&D鉄道を超えることは容易でしょう。ですから、彼のレイアウトを不滅の金字塔たらしめているものは決して「細密さ」でないはずです。少なくも「細密さだけでない」のは確かです。それを解明しようと写真を眺め返すほど、逆に謎が深まり、ただただその魅力に惹きこまれてしまう。私にはジョン・アレンは依然、永遠の存在です。
今年の正月休みのモデリングは彼のG&D鉄道に活躍した車輛の復刻(?)に再び挑戦していました。来年の1月6日が彼の没後40周年に当るので、それを目標に今年中に、彼が市販品を利用したモデルをできる限り集めて、そのウエザリング・テクニックを模写してみようと試みています。
彼の愛用した機関車はすべて蒸機ですが、いくつかの米国メーカーによるダイキャスト製のほかはパシフィック・ファースト・メイル社(PFM)が日本のユナイテッド・アトラス社に造らせたブラス・モデルが圧倒的です。1960年代に走行が最も安定していて、ディテールもシャープ、小型レイアウト向けに最適なプロトタイプを選んでいたからでしょう。
彼はそれらの機関車に自分のG&D鉄道のレタリングと入念なウエザリングを施して完全に自分の世界のものにしましたが、当時、PFMもまた、ユナイテッドの製品は、コレクター向けよりもレイアウト・ビルダー向け、と位置づけていましたので、自社製品がG&D鉄動機となってアレンのレイアウトに活躍する写真(もちろんジョン・アレン撮影)を自社のカタログの表紙に招聘しました。つまり車輛模型の業者が自社製品を架空鉄道のレイアウトに使う夢を提言したわけで、その後、米国にも数多くのブラス・モデル輸入業者が生まれましたが、ここまでやったのは遂にPEM一社だけでした。日本では今日に至るもなされたことがないことです。
私が今なおPFM社を最も偉大なブラス・モデルのプロデュサーと評価するのは、単に製品の品質だけでなく、モデラーをコレクターで終わらせず、クリエーターにしようとする姿勢を持っていたからです。
アレンがG&D鉄道機に起用したPFM製品は次の通りです。
No.6;ユナイテッド製ハイスラー・ギヤード
No.7;ユナイテッド(アダチ)製シェイ・ギヤード
No.10;サクラ(日光モデル)製B&O鉄道0-4-0サドル・タンク
No.26;ユナイテッド製ユニオン・パシフィック鉄道2-8-0
Nos.27・28;ユナイテッド製サンタ・フェ鉄道2-8-0
No.29;ユナイテッド製B&O鉄道2-8-0
No.35;ユナイテッド製シェラ鉄道2-6-6-2改0-6-6-0
No.38;ユナイテッド製シェラ鉄道2-6-6-2
No.39;ユナイテッド製C&O鉄道2-6-6-2
No.40;トビー製サンタ・フェ鉄道2-8-2
No.43;ユナイテッド製サンタ・フェ鉄道2-8-4
No.48;ユナイテッド(アダチ)製カナディアン・パシフィック鉄道4-6-0
このうち、No.7、No.10、No.39はすでに復刻してこの通信でもご披露させていただきましたが、今回はNo.27に挑戦してみました。
これはサンタ・フェ鉄道の1950クラスという製品が使われていますが、PFM社では16回の発注で総計8,047台という大量の供給を行ったために、いまでも中古市場で入手しやすいモデルです。
今回の種車はたまたま12月初旬のeBayで罐モーターに換装した塗装済み、軽ウエザリング済み、というのを見つけ、円高の恩恵をたっぷり蒙った価格で入手しました。入札時にも写真で確認していましたが、塗装はなかなか入念に塗ってありましたので、サンタ・フェのレタリングを耐水ペーパーの水研ぎで落としたうえで、先の写真集やPFM社25周年記念のデーター・ブックの表紙にあるNo.27の写真4点を手本に模写を開始しました。
G&D鉄道No.27は写真を仔細に較べますと、すくなくとも2回の変更が行われています。1回目はテンダーの「GOREE & DAPHETID」の文字が小さなレールロード・ローマン書体から大きな「西部風」書体に替わったとき、2回目は、テンダーをB&O2-8-0のものに振り替えて、パイロットもカウ・キャッチャー付から入換用のステップ・タイプに替えた時です。このときテンダーの前台車もサイド・ロッドの付いたブースター・エンジン・タイプになっています。アレンはレイアウト製作の傍ら、1台の機関車にもこうして時折変更を加えているのです。
私はPFM25周年記念データー・ブックの表紙写真になっている時のNo.27、すなわち1回目の変更でテンダーのレタリングが大きくなったのみ、の姿が一番好きですので、それを模写することにしました。
評伝によると、アレンは機関車を、吹き付けでなく、エナメルの筆塗りで塗装していたそうですので、私もすでに前所有者が吹き付けで塗っていた上にハンブロールのエナメルを縦塗りすることで敢えて微細な刷毛目をつけました。この刷毛目に沿ってウエザリングを施していくのが、どうもアレンのウエザリングを再現するコツのようです。
アレンはどの機関車もレタリングは割合くっきり残していますので、今回はウエザリングを先に、その上にディカールを貼って、仕上げのクリアー・コートを吹きました。
No.27はG&D鉄道の機関車のなかでもハイスラーのNo.6、シェイのNo.7と並んで、最も派手にウエザリングが掛かっていた罐ですので、アクリル絵具を使っての模写も2日掛かりとなりましたが、仕上がってみると「コンソリ(2-8-0)がこんなにも獰猛になるものか!」と自分で感心するほど力に満ちたものになり、改めてアレンの卓抜した感性に舌を巻いたものです。
No.27の作業の各段階乾き待ちを利用して、G&D鉄道の車輛をもう1台復刻しました。カブースNo.8です。
G&D鉄道のカブースの数は写真から推測するところ、そう多くはなかったようです。5~10人の運転メンバーがいくつかの列車を分担して、途中入換や待避を行いながら運転した、という記述からするとカブースの数もそれなりに必要であったはずですが、その割には写真に残っているカブースの形式はごく限られています。私がいままで確認できたのはカブース代用の短いオープン・デッキ客車を含めて、スタンダード・ゲージでは5台だけです。
このうち、圧倒的な頻度で登場しているのはアレンの自作と思われるロング・ボディーの木造2軸車であるNo.1です。次に多いのが、これもアレンの自作らしい車番不詳のコンボ・カブース。そして、グレート・ディヴァイドのヤードに停まっているのが写真に残る、麻―ン製と思われるサンタ・フェ鉄道標準鋼製車‥
今回復元したカブースは、写真集の中に1カットのみ、MR誌掲載の記事の中にもう1カット、とわずか2カットしか出ていないのですが、写真集の中では原木運搬列車の最後尾でハイスラー機No.6に押されている姿に「G.D.LINE」の文字が読めますので、間違いなくG&Dに車籍があった車です。小さな車体から変わった形のアーチバー台車がはみ出しているのが漫画のようですが、ニュー・ヨーク州のアディロンダック山地にあった林業鉄道、グラシー・リヴァー鉄道に実在したものだそうです。
これがその昔、モデル・エンジニアリング・ワークス、通称“MEW”というメーカーからHO製品として販売されていたのをアレンも利用したようです。これも12月にeBayを”ヴィンテージ・モデル“というカテゴリーで検索したらヒットしたのですが、もう一人、手に入れようと執念を燃やしているライバルがあって、3日間デッド・ヒートを繰り広げた末、手に入れました。
製品を手にしたのは初めてでしたが、ボディー、キューポラ、デッキ+フレームの3ピースに分けたダイキャスト製で、想像していたよりしっかりとした出来でした。
こちらは未塗装でしたし、G&Dでの写真もモノクロでしたから色は不明でしたが、同じ木造車のNo.1のカラー写真から類推でカブース・レッドに決めました。ところがダイキャストに赤は、下地にメタル・プライマーを吹いても、エナメルのスプレーでは隠ぺい力が足りません。結局、それも下地と割り切って、別のエナメルを罐スプレーで吹き、さらに上からアクリル塗料の筆塗り、と3回塗ってようやくアルミ・ダイキャストの色が透けて見えるのを隠す事が出来ました。
さて、そこでレタリングということになりましたが、車体の裾近くにある「G.D.LINE」は輪郭からすぐ判別できましたが、その上に何かもう一つ書かれている文字だかマークだかが、写真が小さいので判読できません。老眼鏡をかけたり外したりを繰り返すが、どうにも分かりません。しかし、染みとかウエザリングではなさそうです。2日間に亘って何度も眺め直すが分からない。
ところが3日目に外出から帰って、開いてあったページを何気なしに覗き込んだら見えたのです。それは何と数字の8でした。人間の目って、不思議ですね。その日のコンディションで突然像を結んでしまうのですから‥
で、こちらは煮〆たような赤にするために、仕上げに、さかつう社長お薦めの英国製アクリル塗料、シタデルの透明セピアでウエザリングしましたら、車体の裾の鋳造時にランナーから切り取った際のものらしいめくれにそれが染み込んで、あたかも木の端部が傷んで塗料が剥離を始めているような効果が出ました。
偶然もテクニックのうち‥そう、のんびり構えるような鉄道模型を、今年はやりたいです。