2013.8.18

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.68

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このレポートを書きながらいつも迷うのですが、日曜に「今週」と書いたら、それは「ここまでの1週間」を差すのでしょうか、「これから向こう1週間」を指すのでしょうか?

「週末」というのは「土、日」を意味する、という立場に立てば、明らかに前者です。事実、米国の知人に「3連休というのはこの国では何ていうの?」と訊きましたら「スリー・デイ・ウイークエンド」だと教わりました。月曜日に掛かる連休でもそう呼ぶそうです。ですから、少なくとも西欧圏の感覚では日曜日は「週末」なのでしょう。日本でも「週末を○○で過ごす」といえば「土曜日帰り」に限定して受け取る人はまず居ないのではないでしょうか?

他方、カレンダーは、日本はもちろん、米国製のものでも日曜日から1週間が始まっています。そこから解釈すると「日曜からその週は始まる」という考えなのだ、「週末とは土曜だけ、日曜は週頭なのだ」ということになります。つまり、冒頭の疑問の答えは後者ということになるでしょう。

しかし、日本でも土曜休日が一般化する前から「週末」という言葉はあって、それは休日を意味していたと思いますから、それから解釈すれば「日曜は週末」でしょう。しかし、曜日を上げるときにはほとんどの方は「日、月、火‥」と数えます。戦時歌謡の「艦隊勤務」でも「月月火水‥木金金」と唄うのは、土曜もよくて「半ドン」(この言葉も消えましたね)だった戦前でさえ「一週は日曜日から始まる」という前提に立っていたからでしょう。私は昔から「月、火、水‥土、日」と数えるのですが、この方がどうも極めて少数派のようです。

「地下鉄の電車の入れ方」以上に「考えたら夜も気になって眠れない」(相互乗り入れが増えて、この漫才も知る人が減りました)ので、この配信もなるべく土曜日中に出したいのですが、鍵盤とボタンとかに向かうと途端に指が固まる私はそのためには金曜から書き始めなくてはならず、金曜の夜がちょっと立込むともう無理(土曜のある都合で金曜は夜更かしできません)。なかなか思うに任せません。

で、今日も「今週、と書こうか、先週、と書こうか?」思い悩みながら書き始める次第です。(要するに日曜日は安息日だから、ものなんて書く奴はあってはならない、というのがキリスト教世界の考え方だったので解釈に定義ができなかったのか?) 

ようやく気温が上がってきて、氷室のような地下室にあるD&GRNも工作の指先がかじかまなくなってきましたので、現場作業を再開しました。

年末まで続けてきたクレメンタイン駅構内の草植えは、自分でもちょっと単調に流れてきたと感じはじめました。さりとて解決の妙案も浮かびません。こういうときはあっさり中断することにしています。自分の気が乗らないときにあせってやっつけ仕事でやると後で必ずそこが病根になって全体の流れを阻害します。

そこで目を転じて、「丘の上の石油井戸」の、向かって右手、ちょうどD&GRNの本線が2直角にカーヴする奥の切通しの草木に手をつけることにしました。

この部分は初期の『とれいん』で何回か舞台に使った以外はあまり写真にしていません。それはここにちょうど、レイアウトの外周にある8本の鉄筋の柱型の一つがある上に、その両脇が未成だったためです。

しかし、向かって右側は数年前(『レイアウト・ビルダーズ』の2冊目を製作した頃)に、つながる地形をざっと拵えましたし、左側は昨年「丘の上の石油井戸」が完成したのはご存知のとおりです。こうなると、それをつなぐ切通しもどうまとめるべきか、方向が見えてきました。

私のやり方は前にも書きましたが、片端から一斉に「線路」、「シーナリーの骨組み」、「プラスター掛け」、「着色」、「ストラクチャー置き」‥と進めて行くやり方ではなく、核となる部分、部分を飛び飛びに、各所60~70%ぐらいまで造って、そのあとで、その中間となる部分の最終デザインを決めていく方式です。いわば「逐次前進、暫時考察の繰り返し」で、その方が、似たような風景が続いてしまうのを避けられるのではないか、と予感したのです。製作の最前線を逐次移動していく建設の姿はジョン・アレンの第3次G&D鉄道建設を範としていますが、各部のデッサンはジョン・アレンほどには綿密にせずにスタートしました。(私のいう「60から70%までの仕上げ」は今週の写真で手前の保存機関車のある公園予定地周辺くらいを指します)

それでわれながら上手く使った、と思うのは鉄筋を埋めた柱型です。

鉄筋構造というのは木造建築より柱の本数は少なくて済み、柱間のスパンも大きく取れますから、一定以上の面積のレイアウト・ルームには好都合ですが、その分、「柱型」として大きなコーナーを柱型1箇所について2つ生じてしまう、という難点があり、このコーナーが出ないようすれば、その分、レイアウト・ルームの面積が小さくなってしまいます。

D&GRNの場合、柱型が8箇所ある、ということはコーナー数として16になるわけです。

このコーナーをどう処理するか、についてはレイアウトの設計段階で、平井氏と検討はしました。ジョン・アレンをはじめ米国では「コーナーに影を引かせないために」その部分を薄い合成材やゴム板でRにまとめる方法がよく採られています。TMS編集部の宮野氏も御自分のレイアウト建設に当って「当然そうした」と書かれていました。

しかし、私が平井氏と実際の図面にそうしたコーナー隠しの曲線壁面を描き込んでみたところ、柱型間はその分、かなり面積が減り、背景画では描けるものの、立体として本線の外側に展開できるストラクチャーの数はかなり制限されることがわかりました。

私も平井氏も、レイアウト建設への大きな期待の一つにストラクチャー作りを考えていましたので、「柱が多少影を出しても、ストラクチャーが一つでも多くおける方がいい」という結論になって、D&GRNでは曲線壁面の考えは一切採りませんでした。

この検討局面で思ったのは「レイアウト建設に定石とされるものにも必ず裏表、得失がある」ということでした。

かくして、D&GRNでは柱型ごとに3直角、4直角のクランクを壁面に生じる事になって、見る角度によってはその部分、壁面に影が出たり、背景の空の色、描かれた山や雲に連続していない箇所が生じたりしていますが、柱の影は照明のアジャスト(配線レールで移動できる)スポットライト)でかなり減殺でき、背景の不連続も地表に近い部分ではストラクチャーや樹木で隠すことができ、高い部分は列車の動きを中心に移動する視界ではほとんど注意が行きません。

強いていえば、写真に撮ったときに、その不連続や若干の柱の影が気にすれば気になる、ということがありましたが、いまやそれはデジタル写真の処理でほとんど修整できる時代が来てしまいました。現に昨年の『LB4』のD&GRN関連グラフでは『とれいん』編集部の優秀スタッフ、脇ディレクターの手で見事に修整されています。これはこのレイアウトを設計した38年前にも「いざとなれば写真はブラッシングで修正という手もある」と考えましたが、まさかここまでそれが簡単になる時代が来るとは思っていませんでした。

しかし、今回の作業部分は8箇所の柱型のうちでも、その突出が一番目立つところではあります。ちょうど本線が中央駅を出発して複々線のカーヴを曲がり終え、そのまま次駅ユリカ・ジャンクションまでの平坦直線区間に入る地点ですから列車を追う目も集中するからです。

同時に、この柱型はシーナリー的にも、ハドレイヴィル市の旧市街域から一段高い線路を隔てて後背地として展開する豊かな農村風景と「石油井戸のある丘」の乾燥した荒地を隔てていますので、その切り替えの緩衝地帯という役目を負っています。

農村側は植栽は全くこれからですが、地場の産業鉄道がビール工場まで延びてきていて、その背後はとうもろこし農家、ビール工場からは小川を隔てて小高い丘に変わり、中腹には開業医の診療所兼自宅、そして頂上には地主の邸宅が建っています。

ストラクチャーは5軒中4軒がキャンベル社のバス・ウッド・キットの利用で、キャンベルのカタログから抜け出したような、「キャンベル村」の観を呈しています。あえてそうしたのは、このあたりで自分の好きな1960年代ごろの米国のレイアウトのテイストを再現したかったからです。

切り立った岩場の上に建つ邸宅はキャンベル社の「グランマズ・ハウス」すなわち「お祖母ちゃんち」を組んだものです。入り組んだ屋根にシングルス(屋根葺き板)を貼るのがしんどいキットですが、その分、組みあがった姿には手頃な大きさながら風格があります。

こうした邸宅が切り立った崖の上に建っているのは、デンヴァーから西郊外で3フィート・ナローゲージがいまなお運転されているジョージ・タウンに向かう道すがら、ハイウエイの北側、日当たりのよい崖の上に、立派な邸宅が点々とあったのを見て、「ああいう建て方でいいんだ!」と納得したのを再現しています。

この邸宅の丘と、手前の切通しの間に溝があるのは、シーナリーも実際ここで分割していて、邸宅や農場側はすっぽり抜き出せるシーナリー・セクションになっているからです。もし線路に大規模な補修が必要となれば、ここが作業用のマンホールとなります。そして溝は丘の上の林の中から流れ出した湧き水が敷地の境を細い渓流となって下っている、という想定で、それを岸辺の水生植物や野草で表現する積りです。

そういうことで切通しの上には雑木林と、前々から思っていました。邸宅の裏が直接石油井戸、どころか、ロス・アンゼルスの近郊には邸宅の庭に石油汲み上げポンプが上下している風景も珍しくありませんが、まあ、「お祖母ちゃんの家の裏は林になっていて‥」とお孫さんには説明させてあげましょう。

そして、実際、この邸宅のすぐ後ろが柱型の角ですから、林を造るのがその角を隠すためにも好都合でした。

しかし、柱型の壁面から切通しの縁まではせいぜい1.5cm程度。ここに林らしく樹木を密植するのは考えるほど簡単ではありません。上の方に葉を生い茂らせるほど、根元では幹の間隔が開いてしまうからです。

さてどうするか、背景に林を描き足して、そこから枝だけ突き出すようにするか?などと思いを巡らすうち、ウオルサーズの最新カタログで面白い樹木製品を見つけました。品番181240「プロパティー・ライン」、すなわち「敷地境界線」と題したもので、見当をつけて注文してみましたら、濃緑の硬い樹脂製ネットに樹木や下草を植え込んだもので、ネットにも葉が藪畳のように絡んでいるため、相当に深い樹層のように見えるのです。

これを切通しの稜線や柱の角に合わせるために鋏で数ピースに切断してゴム系接着剤で背景に貼り、それらを芯にして、まだ空いているところには他の樹木の枝やミニネイチャーの下草、つる草を絡ませましたら、相当なボリューム感が出ました。

こうなると、いままで土のむき出しだった切通しの斜面もやはり植物の存在が欲しくなりました。もちろん切通しには除草剤の効果や土質によって、ほとんど草の生えないものも見受けますが、風景のボリューム感としては頂上にこれだけの樹層がある以上、斜面にも「冬を前に沿線火災防止で焼く払われたものの、今年もたくましく芽吹きしてきた」くらいの野草はバランス上欲しいところです。

しかしこうした切り立った斜面というのは、植える草の選定に結構悩みます。急斜面というのはなかなか一面草むらにはなりません。これも一気にやると失敗しそうなので、とりあえず足がかりとしてウッドランド・シ-ニック社の硬めの着色スポンジ、「クランプ・フォーリッジ」を粒をほぐしながら接着しました。写真では斜面から染み出した水が砂の流紋を描いた様を残しながらもたくましい緑の再生を持った初夏の感じは出たかな、と思います。ロッキーあたりで斜面にもこういう繁り方をするのはセージブラッシュでしょうか?

ただ、ウッドランドの着色スポンジは色が割とシンプルなので、この銘柄ばかり使うと風景が妙にフラットになってしまうきらいがあります。写真に撮ると一層それが際立ちます。週(先週?) はここまでやりましたが、固着を待って、周囲に枯れ草や花付きの野草、潅木など植え込んで眺めに深みをつけたいところです。