2014.5.12

アメリカ型鉄道模型・連載コラム『モデルライフ』 Vol.75

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我田引水ではなく、世界の鉄道史で車輛がもっともバラエティーに富んでいるのは間違いなく米国でしょう。たとえば東部最大手だったニュー・ヨーク・セントラル鉄道とペンシルヴァニア鉄道を合わせただけで、明治5年以後終焉までの日本の国鉄を遥かに超えてしまいます。車種別では通勤電車と気動車ぐらいでしょうか、国鉄の方が多かったのは‥

そういう次第に加えて、HOスケールの本家本元ですから、HOでの車輛製品とストラクチャー・キットの豊富さも群を抜いています。

ちなみに、日本では一般に車体がある縮尺でつくられていればスケール・モデルだ、と誤解している人はメーカーにすら多いのですが、スケール・モデルの正しい意味は、「線路幅つまりゲージと車体幅が同じ縮尺で作られているモデル」ということです。日本では模型化というと長さを重視しますが、スケールの本来の視点は断面なんですね。ですから入門用の“ショーティー”モデルでも断面は正縮尺に依っているので、「スケール・モデル」を名乗るのを許されているわけです。つまり、車体の長さは極論すれば同縮尺でなくともスケール・モデルと呼んで構わない、というのが「スケール・モデル」の考え方です。

「断面が基準」というのは、やはり最初から「スケール・モデルはレイアウトを前提としたもの」という解釈に立っていたからでしょう。HOはそこからスタートしましたので「HO
スケールでないHOゲージ」というのは、実は存在しないものなのです。ですから現在「スケール・モデル」と呼んで可なのはスタンダードではHO(1フィートを3.5mmに縮尺)とS(1/64)だけです。(日本の「13mm」や英国の「EM」のようなローカル・スケールもあります)

話を戻して、米国とカナダにおけるHOですが、プロトタイプから見ると、ディーゼル機関車、電気機関車については「ほとんど」といってよいほど、貨車もレディー・メイドと、そのマイナー・チェンジ程度はほとんど製品化され、蒸機も主要鉄道の代表形式や小鉄道ながらも有名なところのものはまず、もれなく製品化され、そしてカブース(車掌車)は蒸機、ディーゼル、両時代を併せて各鉄道の正確なモデルが500形式以上が発売されています。

ただ唯一供給面で遅れているのが客車分野です。旅客列車全盛時代、あまりに多くの鉄道会社が分立し、それぞれに独自の客車を発注していたために、その製品化が追いついていないのです。この30年、韓国製ブラス・モデルの躍進でかなり改善はされ、一級鉄道の看板列車はまず製品化されましたが、それでもいまだに「機関車はあるのに、考証的に正しく対応する客車が製品化されていない!」という鉄道は結構あります。現在の時点では1920年代以降の各車種が大体不自由なく揃うのはサザン・パシフィックを筆頭に、ペンシルヴァニア、ユニオン・パシフィック、サンタ・フェ、グレート・ノーザン、ノーザン・パシフィックぐらいでしょうか?多くの鉄道で正確なものが出ておらずに困る車種は食堂車と荷物車、郵便車ですね。蒸機時代なら、これらさえあれば、あとは、寝台車はプルマン社からのリース(多くの場合、レタリングはPULLMAN)ですから、オール寝台列車なら、一応「臨時列車とか季節列車に実在した可能性がある編成」は造れます。

米国にあってさえ、多くの人に、「客車は、塗装を除けば、重鋼製か軽量切妻か、以外はどこの鉄道も同じようなもの」と映るようですが、実際には各鉄道で荷物車、郵便車、座席社にはそれぞれの鉄道の、くせ、特徴、があります。

たとえば、どこの鉄道、製造年代でも同じもののように見えるステンレス客車でさえ、コルゲートの幅や取り付け部分、窓の隅Rの取り方や乗務員控え室、化粧室の小窓配置などで、鉄道ごと、列車ごとの雰囲気が違います。重鋼製の荷物車、郵便車、食堂車では屋根のリブの取り方や車体裾周りのリベット列の雰囲気、幕板、腰板の幅の取り方などが微妙に異なります。座席車では外見は一見よく似ていても窓数や窓柱寸法が僅かに違っていたりします。国電でいえば40系半流と51系のようなものです。

ですから、私のように、車輛個々の細部より、編成としての雰囲気の再現を重視する者にとっては「客車製品」はいまだに結構ネックになっています。

いまなおそうした状況の鉄道の一つが「シカゴ、ロック・アイランド・アンド・パシフィック鉄道(CRI&P),通称“ロック・アイランド”です。この鉄道は大平原のど真ん中を中心に広い路線網を張り、蒸機よりむしろディーゼル機関車の形式と塗色のバラエティーの豊富さに興味深いものがあります。

しかし元来がとうもろこし畑、小麦畑、牧場ばかりのところを走っていて、シカゴの通勤以外には長距離客車列車の本数も少なかった鉄道です。そういう鉄道ですから、必然、ディーゼル機の製品化ばかりが進んでしまって、客車は本当に稀にしか製品化されてきませんでした。

そんなロック・アイランドに、1本、大変に私の気を惹く列車がありました。「ロッキー・マウンテン・ロケット」といって、シカゴから大平原を一直線に西進し、コロラド州へ入ったライモンという分岐点で、デンヴァー行きとコロラド・スプリングス行きに分割される特急でした。いわばブルートレイン「さくら」の米国版です。

特急の途中分割、併合自体は米国ではさほど珍しくなかったのですが、この列車は唯一、その分割用に、GMへのオーダー・メイドで中間運転台を持つ次位専用ディーゼル機、AB-6という珍機を永年使用していたことが特徴的でした。

通常は運転台を持っていないBユニットが分割駅で運転台つきのAユニットに変身する、というガンダムのような?珍妙さで、しかも私のメイン・テーマの「ロッキー」を目指してくる列車として、「ロッキー・マウンテン・ロケット」はなんとしても模型に再現してみたい列車になったわけですが、この客車の製品化されたものは全くありませんでした。

全編成ステンレス客車ではありますが、列車新設がぎりぎり戦前であるため、様式がやや古風で、いわば野暮ったさを残した二流品ばかり、しかも他の有名列車に共通使用の無い8輛編成ですので、どこのインポーター、メーカーにとっても真っ先に製品化したい企画ではなかったことでしょう?

もう30年近く前から気になってきた編成でしたが製品発売も全く期待はしていませんでした。それが3年ほど前、プレシジョン・スケール(PSC)という、時折、ちょっとくせのある企画をやりたがるブラス・モデルのインポーターが、何を血迷ったのか、「ロッキー・マウンテン・ロケットの客車編成をやる」という発表を行ったのです。

「本気かよ?流線型客車など普段手がけないPSCが本気だとすれば、米国のブラス業界もいよいよ製品化するものがなくなってきたんだなぁ」と思いましたが、とにかくすぐさま予約は入れました。こんな、いわば二流特急の編成に予約を入れるのは日本ではおそらく私ぐらいのものでしょう。

いま米国に生き残っているブラス・モデル・インポーターはどこも同じですが、とにかく新製品の企画だけはつぎつぎ当てずっぽうに発表するのです。それで同業者を牽制しつつ、あわよく注文が集まれば生産を発注する、集まらなければ有耶無耶のうちに消してしまうのです。

こうした、ブラス・モデル・インポーター同士のチキン・ゲームはファンの方にとっては迷惑です。どちらが、発売の実現度が高いか、判断に困るうえに、裏目に出て、自分の予約していた方が消えてしまった時点で他方へ乗り換えようとしても、そちらはすでに予約完売、ということもあるからです。また、インポーターのその時々の資金事情によって、必ずしも設計センスのいい韓国メーカーの製品の方が実現するとも限らないからです。

いまや、米国のブラス・モデル界は不況から注文が集まりきらず、そうした浮遊霊みたいな企画のオンパレード状態になっていまして、「ロッキー・マウンテン・ロケット」も予約はしましたが、実は全く期待していませんでした。昨年の暮には「来春発売」の知らせも来ましたが、それでも「どうせ蕎麦屋の出前だろう」と本気にしませんでした。

また、本気にしない方が、こちらの油断を衝くように、本当に発売になるのです。それが「ブラス・モデルの法則」。

ですから、実現して欲しい予告製品は敢えて本気にしないようにします。そうするとこちらの裏をかいたように(実は、裏のまた裏なのですが)、発売になる。この辺の、運命との心理戦というか、駆け引きが大変です。こうなるとモデラーではなく、もはや陰陽師ですね。(馬鹿じゃなかろうか?)

その心理作戦が上手く当たって(?)、2月の末になって「3月中には発送開始となる」といって、請求書が送られてきたのです。「新製品」とか「永年探していたもの」というのは大概、ふところがトコトン寂しい時に限って、出てきますね。これもまた「ブラス・モデルの法則」です。結局またカード・ローンの残高が逆戻りすることに‥

で、結果的には予告より2週間ほど遅れた4月の第1週に、2段重ねの馬鹿でかい箱が届きました。フル・インテリアは当今当たり前ですが、さらに蓄電点燈装置つまりしばらく連続して走らせると、回路に蓄電されて、停車しても数分は室内照明が点燈している、という回路つきです。

これも機関車だけ揃えたまま何年待ったことでしょうか?テーマが一貫しない、ただ数を誇るだけのコレクションには賛同しませんが、テーマのあるコレクション、といっても、執念深く待ち続けないと一つのプロジェクトが成就しない、という点においては結構大変です。下手をすれば不揃いの投資のまま、こちらが死んでしまうかもしれないぐらい待つのですから‥寿命と勝負の、壮大なマージャンやってるようなもんですかね?

中でも、この「ロッキー・マウンテン・ロケット」は、自分でも実現の可能性は20%もあるかどうか、と思っていただけに、生きているうちに自分のレイアウトで走る姿を見ることができた、というのは稀有の僥倖、感動ものですね。このところ、この編成ばかり飽きずに走らせています。ついでに「宣伝用の?」の写真も取りましたのでご覧に入れます。

しかし、こうして久しぶりにある角度から写してみると、レイアウト上の宿題も目に付きますね。レイアウトの完成度をチェックしようと思ったら、肉眼で見るより写真に撮ってみるに限ります。肉眼ですと、どうしても未完成のところはなるべく見ないようにしてしまいますが、写真は隅々まで同じ基準で怠惰の現実を突きつけてくれます。

この写真で見ても、30年以上前にざっと造った土手の斜面は、最近草植えした後方の切通しに比べると平板、単調ですね。これが、私がしばしば書く「60%ぐらいで一旦停めておく」の状態です。こうして後方や周囲を固めてくると、この土手はどういう草植えに仕上げて行くべきか、何となく見えてきます。そろそろ植えはじめましょう。

怠惰、といっても、途中まででも手を着けるからこそ、段々見えてくるのがレイアウトではないか、というのがむしろ私の実感ではないでしょうか?少なくとも手を着けないでいくらスペースだけ眺めていてもレイアウトは勝手には生えてきませんし、さりとて、全面をいっぺんに完成させようとしても難しいし、それを急ぐと必ず単調になって、完成した途端に壊したくなるのもレイアウトではないでしょうか?「急がず、怠けず、諦めず」がレイアウト建設の長続き三原則かもしれません。

「ロッキー・マウンテン・ロケット」と並進して駅に入ってくる高速貨物列車の先頭に立つ「フリスコ鉄道」の「トリプルFマーク(フリスコ・ファースト・フレイトのシンボル)」4-8-4の重連も、テンダーに石炭を積まなければいけません。そういえば路面電車通りの向こう側の列車型食堂もまだ途中ですね。

まだまだ沢山やることがあって、うれしいような、溜息が出るような‥