週刊 汽車道楽 平成28年12月11日号(1)
◇ 「デゴソバ」
あなたは「D51」を呼ぶのに「デコイチ」と発音なさいますか?それとも「デゴイチ」と
濁る派?
「現場通」をもって自らを任じる方の中には「デコイチ、と濁らないのがプロである。デ
ゴイチと濁るのは素人」とのたまう向きもあります。
私は元来が大雑把を好むたちで、言葉というものは手書きの矢印程度のもの、意味さえ通
じれば何が正確か、いちいち言い立てるほどのものでもないだろう、という考えなので
、「デゴ」でも「デコ」でも、その人が好きなように使えばいいだろうと思っています。
そもそも、旧国鉄の現場といってもかつてD51が入線していたのは、北は名寄から南は鹿
児島まで数限りなくあったわけで、それぞれの地域で当然方言もあったでしょうから、愛
称、通称に「これが正しい」もないものでしょう。
私自身、普段、その時の気分で「デゴ…」と言ったり、「デコ…」と発音したり、一定し
ませんし、意識もしていません。
ただ「C55」、「C57」…となると「シココ」、「シコナナ」と発音する人に遭わないと
ころをみると、「一貫性」という点では「5」はやはり「ゴ」なのでしょうね。
「ギョエテとは俺のことかとゲーテいい」落語にもそういうことで、いちいちに人の会話
の細部を正さないと気がすまない知識人気取りが登場してきますが…鉄道趣味界では、も
う亡くなられて久しいですが、日高冬比古さんという、国鉄OBの技術屋さんでしたが、
そういう「小言幸兵衛」で有名でしたね。この方が一座に混じると一々に説教が入るので
会話が成立しなくなってしまう。日高さんがそばにいると、皆さん警戒してつい口が重く
なってしまう。ご本人は至って無邪気なのですが…そういう有名人も居たものです。
まあ、「道楽」ですからね。会話の流れを止めてまで言い立てるのも野暮と思いますが…
さて、先月、鉄道写真家の高野陽一氏のお誘いで、上越線にC61を写しに行った際のこと
です。
この高野夫妻の毎回のお誘いは「蒸機を気楽に写して、地場の美味い物で昼食を摂り、道
の駅に立ち寄って、都会に流通していないような食材を買い求める」というのがコンセプ
トです。
今回も水上でC61の折り返しを待つ間、温泉街の入口にある「道の駅」に車を走らせて下
さり、東京では見かけないキノコなどを買い求めるができましたが、ふと麺類のコーナー
を見ると、D51を袋の絵柄にした「デゴソバ」なる商品に気づきました。
「上越線水上駅前 くぼ田」なる商店が製造しているそうで、裏面の説明には「みなかみ
駅にやってくるSLのボディーに似せて、竹炭を練り込んだ黒いソバを作りました。」とあ
ります。
あの「イカ墨スパゲティー」にヒントを得たものなのはあきらかです。
まあ、黒いソバ、というだけで、特に栄養的な効能があるわけではありませんが、炭の香
りは好きなので、「話の種に」と買ってみました。
袋の説明によれば、メーカーとしては冷麺で食すのがお勧めのようですが、黒い麺を黒っ
ぽいつけ汁に入れては視覚的に面白くないので、当家では汁そばで、対比を美しくするた
めに天ぷらそばにしてみることにしました。プレートなどの砲金の色のつもりです。
「天ぷらそば」というと、大変贅沢に聴こえますが、近所のスーパーの、自家製の天ぷら
を出している店で、どうせインド洋かブラジルあたりの養殖海老でしょう、惣菜物の海老
天ぷらを買ってきまして、載せてみただけです。そば、そのものは、墨の香りと、べとつ
かない歯ざわりが気に入りました。
まあ、これだけの話ですが、ご興味のある方は下記が製造元ですのでご照会ください。
「そば処 くぼ田 〒379-1611 群馬県利根郡みなかみ町鹿野沢70-15
電話0278-72- 6420」
それにつけても、全国に蒸機の運行を存続させたいと願うなら、撮影に行くファンがわず
かでも地元にお金を落として観光効果を生むことに協力すべきですね。自動車で行って撮
るだけ撮ってさっと立ち去る、地元では飯も食わない…それでは運行を続けよう、続けさ
せたい、という意気込みがしぼんでしまいましょう。事実、上越線をわが庭のようにして
いる高野氏によれば、JR高崎支社のやる気は年々しぼんで来ているのを感じるそうです。