2011.4.12

モデルライフ Vol.3

鉄道模型2011_0412

レイアウト造りというのは実に不思議で、「自分にこんなこと、できるんかしら?」と思いながら、やってみると、存外かたちになるものですね。何か目に見えないものが取り憑いて、勝手に手を動かしてくれたような、思い返して思わず振り向いてしまうような感覚が体に残る事があります。およそ12mx7.5mの空間にたった一人で作業しているのに、知らないうちに誰かが周りで見ているような気配に包まれているように感じていることもあります。

レイアウト・ルームというのは、そういう不可思議な空間ではあります。私は、岩や樹木を造った事で、きっと大自然の精霊が棲みついたのだ、と思うようにしています。

日本では「やおよろず(八百万)の神々」といいますが、ここでいう「神々」は「ゴッズgods」ではなく「スピリッツspirits」です。北米インディアンの信仰もそうした「万霊信仰=アニミズム」です。柳田國男の世界に登場する「座敷わらし」もこの類でしょう。

近年、あの部屋に行くと、何か気に包まれて気力が回復するような気がします。単なる模型列車の運転場に留まらず、そこに入り込むと、身も心も洗われる、精霊の空間になっているのでしょうか?まあ、確かにあの部屋には鉱石やら化石やらワインやら砂漠の砂やら枯れ枝やら、天地の気が凝縮したようなものも、あれこれ持ちこんでいますし、ね‥

それで、この1週間はアスペン砂利会社の小さな機関庫のまとめこみに集中しました。30年ぶりに開いた説明書の作例写真を眺めると、「こんなに上手く、自分にできるかしら?」と思ったのですが、あせらないでパーツ一つ一つを塗り分けていくと‥できるものですね。

このFine Scale社のキットは建物の周囲に並ぶ鍛冶職場の諸道具や古機械もさることながら、インテリアが見せ場です。事務机、宿直用のベッド、工作台2箇所や備品棚が大きな開口部から見えるようにデザインされています。

キットの設定は「ロギング・リペア・シェッド」というタイトルの通り、木部の多い運材車なども修理している施設、ということで床に木片も散らすようになっていますが、私の用途は機関車の収納と日常修理ですから、キットに含むインテリアのほかに、空いた空間に新額堂の引き出しで見つけたBar Mill社の中型旋盤とPreiserのボール盤を加えました。

新額堂にしても、さかつうギャラリーにしても、こういう、何かやろうとしているときに高揚感を後押ししてくれる店の存在というのはありがたいですね。東京のモデラーは世界一恵まれていると思います。

照明は、その、さかつうの「チップLED」3個を並列にまとめて同社指定の「定電流ダイオード50%タイプ」を介しての12VDCでやってみました。「チップLED」は小さいのもさることながら、厚みも薄いので、こうした「光をやわらかく拡散したい」ケースにはうってつけです。今回も「昼間の外光とのバランスではちょうどいい、煌々とせず、しかし明らかに照らしている」という具合が上手く出ました。

天井から地下へのコードの誘導は黒のヒシチューブを加熱せずに、いちばん見えにくいコーナーの柱に沿わせて接着し、そこを通しました。

内外を2個の小箱に分けたキャスティング・パーツを一つずつ配置していくと、黒染めする前には「ウへーっ、こんなに?」と思った山がいつの間にか消え、「あれっ、もう終わり?」という感じで完成でした。

草植えは、こうした「一面の殺風景さ」を出すのは却って難しく、ほとんどが川原へ降りていく線路の坂道が主ですが、水、木、金の三晩掛けました。

デジタル・カメラの登場がありがたく思うのは、こういうときに写真に撮ってみてメリハリの程度を検討できることです。ほとんどがMini nature製品の利用ですが、葉が1本1本独立している「ツンツン草」系ばかりでは大小や色を取り混ぜても、場が広くなると却って単調感が出てくるので、最後の晩に、「ツタ」系で、すこし枯れ葉も混じったものを小さく切り出して、潅木風に植え込みました。

実物の植物をいじる趣味でいえば、「花壇作り」ではなく、自然を象徴的に凝縮して見せよう、という「活け花」の世界に通じるものが大きいようですね。ですから、「きれいに揃える」ことより「落ち着いた乱れをどう作るか」が課題なのだと思います。

作例写真と見比べると、ウエザリングなどは特段対抗意識を燃やしたわけではないのに、われながら自分の方が自然らしく仕上がったところもあり、またしても「これは自分がやったんじゃない、精霊が憑依して手を動かしたのだろう」感じているところです。(続く)