モデルライフ Vol.7
レイアウトD&GRNの製作は引き続き、クレメンタイン支線ジェッツウェルとクレメンタインの間のカーヴが工事現場です。
先日来の左手のカーヴはどうやらシーナリー・パウダー、バラストも固着し、レールがスパイクされるのを待つだけ、というところまで来ました。私の不器用を憐れみ賜う、やおよろずの神々のお手助けのおかげです。
ここで一気にレールをスパイクしてしまいたいところですが、それにはまだ、もう一つの宿題をクリアーしなければなりません。このカーヴのちょうど中央を横切る川、「プロスペクターズ・クリーク」に架かる鉄橋です。
実は、鉄橋本体は、30年以上前に完成しております。ストラクチャー・パーツや機関庫の工具、小物などで当時話題を呼んだSSLtd.(スケール・ストラクチャー・リミテッド)社のキットから平井憲太郎氏が組み上げた古典的な木造トラス橋、“ディンキー・クリーク・ブリッジ”で、埋め込まれた無慮数百のキャスティング製ボルト・ナットの頭のごつさが古色蒼然たる雰囲気を漂わせる、美しい構造物です。(30年以上経った今でも売られているのも凄いですね)
これもさっさと架けてしまえばよさそうに思われるかもしれませんが、鉄橋架け、という作業が厄介なのは、その下に横たわる川床、水の流れを先に作っておかないと「後からでは手が入らなくなり自在に作業できない」という事態に陥ることです。
ですから、鉄橋一つを架け、レールを通す、というには、その周囲の自然を先ず仕上げる、という迂遠な仕事が付きまとうのです。
これを面倒がると、後で非常にやりにくい作業を発生させる、という後悔を生むことになります。レイアウト製作で一場面を造るには、手当たり次第闇雲に突き進めばよい、とばかりは行かず、場面全体で「こうすれば、こうなる。だから、こちら側から攻めていって、次には‥」という、いわば「数手先まで読む」という必要に迫られる時も出てきます。
そこで、この川の河原作りの工程を読みますと、鉄橋の直下はさほどの手間ではありませんが、そのすぐ下流に「アスペン砂利会社」の採砂現場があります。
ここは蒸気駆動のパワー・ショベルが川床から砂利を漉くっては、ダンプ貨車に積み込み、それをシェイが段丘の上のジェッツウェル駅構内へ押し上げていく、という場面にすることに、これも35年近く前のプランニング当時から決まっています。
このあたりまで川床を仕上げてしまいませんと、川全体の基礎水面となる高透明エポキシが注入できません。基礎水面が出来ませんと、その上に上流から流れ込む水流(これが傾斜面で鉄橋の真下に来る)が造れません。ここ数日、何度考えても、そういう作業の連鎖になっているのです。
なぜ、それがちょっとした課題になるのか?と申しますと‥
採砂現場のレール(HOn3)もとうの昔に敷いてはあったのですが、右岸のショベルが貨車に砂利を積み込んで、それをシェイが押すには、シェイの長さ分、レールは左岸側に延びていないとショベルのバケットが貨車の上に来ない、という問題が以前から懸案になっていました。昔、そのあたりをよく考えないで、一度河原を造ってしまったのです。
しかし、川底から砂利を一漉くいする毎にショベルの方が後退して貨車の位置に来てはまた戻る、というのは、どう考えても合理的ではありません。それなら当然積み出し側の線路を延ばすでしょう。
レイアウトのシーン作りを決めるに当っては、このように実際の人間の心理、行動の合理性を想像してみる事が非常に大事だと感じます。そうすると、「何故、ここに通路があるべきなのか?」など、必然性や自然さが見えてきます。
面倒ではありますが、いよいよ、その、「川原のやり直し作業」が先送りに出来ないところまできてしまいました。鑿と金槌でガンガンやって、一度造った河原を線路の幅だけ掘り、さきほどようやく枕木が延長できる面を開削しました。
水の流路ではレールは直接水流を渡ります。ウエスト・ヴァージニア州の林業鉄道に実在した、ロギング・ファンには有名な光景です。日本ではロギングの大先輩である山本豊氏がディスプレーで、また昨年は「ハワイアン・モジュール・クラブ」で佐藤一郎氏が、見事に作品化していますが、私もぜひ一度作ってみたかったシーンです。
といっても、当レイアウトではチコサン・ヴァレー林業鉄道の方にはそれを再現できそうな場所がありませんので、ここでやるしかなかろう、と思います。
今日はその枕木を並べたところで作業終了。あとは紅茶でも飲みながら、長年の懸案にようやく目鼻が付いた満足感に浸ろうという寸法で、ちょっと、その眺めに写真でお付合いいただきましょう。
カーヴ全体の色調は大体こんな感じになります。今日はたまたま、左手のオレンジ色の小さな学校の校庭に並ぶ遊具、街道に立つ踏切標識など、この一帯のために新たに注文してあったパーツも届きました。ここから先が、私には一番愉しい作業になっていきます。